さるべき契りこそは 105

2021-02-28

原文 読み 意味 桐壺07章25@源氏物語

さるべき契りこそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは いとたいだいしきわざなりと 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり

さるべき/ちぎり/こそ/は/おはしまし/けめ そこら/の/ひと/の/そしり/うらみ/を/も/はばから/せ/たまは/ず この/おほむ-こと/に/ふれ/たる/こと/を/ば/だうり/を/も/うしなは/せ/たまひ いま/はた/かく/よのなか/の/こと/を/も/おもほし-すて/たる/やう/に/なり-ゆく/は いと/たいだいしき/わざ/なり/と ひと-の-みかど/の/ためし/まで/ひき-いで ささめき/なげき/けり

(側仕えから離れると)こうなる因縁が前世にあったのだろうが、周囲の誹り恨みも遠慮なさらず、あの方のこととなると見境もなくし、今ではもうこんな風に国政への関心まで投げ出しておしまいでは、どんな災いを招くことやらと、異国の朝廷の例まで引き合いにしてひそめき嘆くのです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造 と…まで引き出でささめき嘆きけり:四次

〈[帝]〉さるべき〈契り〉こそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆく〈[の]は〉 いとたいだいしきわざなり 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり

色分:〈主語〉助詞・述語 [ ]:補充 //挿入 |:休止 @@@@@@@@:分岐

機能語と係り受け

さるべき契りこそはおはしましけめ そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ 今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは いとたいだいしきわざなりと 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり

「さるべき契りこそはおはしましけめ」:「こそ…已然形」の挿入は譲歩構文を導く

助詞・助動詞の識別:けめ せ ず たる せ たる に なり けり
  • けめ
  • たる
  • たる
  • なり
  • けり

さるべき契りこそおはしましけめ そこら誹り恨み憚らたまは こ御こと触れたること道理失はたまひ 今はたかく世こと思ほし捨てたるやうなりゆく いとたいだいしきわざなり 人朝廷まで引き出で ささめき嘆きけり

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

敬語の区別:おはします せたまふ 御 せたまふ 思ほす

さるべき契りこそ はおはしましけめ そこらの人の誹り恨みを も憚らたまはず このことに触れたることを ば道理を も失はたまひ 今はたかく世の中のことを も思ほし捨てたるやうになりゆくは いとたいだいしきわざなり と 人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪;失われた意味を求めて

人の朝廷の例まで引き出で 01-105:皇統分裂の危機

「人の朝廷の例」は「楊貴妃の例/01-005」のこと(具体的には安禄山の乱(安禄山は反乱を起こし、大燕皇帝として即位)のことで、わが国で同様な反乱が起これば、皇統が二分されることになる国の非常事態となる)。今までは「引き出でつべく(持ち出されかねない)/01-005」状況止まりであったのが、ここで初めて実際に引き合いに出されたことになる。もっとも、この嘆きの中で「さるべき契りこそは……思ほし捨てたるやうになりゆく」は帝の説明であり、他国の朝廷の例を暗示させるのは「いとたいだいしきわざなり」とあるだけで、詳細は不明である。直説法で帝を批判することは、物語の中でも困難であった。「いづれの御時にか/01-001」で帝の名を匿名にしたこととも関わる王朝人の意識であろう。

そこら 01-105

多くの。

道理をも失はせたまひ 01-105

具体的には弘徽殿の女御より桐壺更衣を大切にしてきたことや、さして身分の高くない更衣が一人亡くなっただけなのに尋常でない悲しみにくれている様子が理解できない。

かく 01-105

「朝政は怠らせたまひぬべかめり/01-102」やその後の食事に関心が無くなることを受ける。

世の中のこと 01-105

公的面では朝政、私的面では食欲、また「御方がたの御宿直なども絶えてしたまはず/01-047」とあり、性欲も失った状態で、桐壺の魂を求め、この世のことに関心が薄れてきていることを表す。

たいだいしき 01-105

道がでこぼこで難儀する感覚で、先行きの困難さ。

わざ 01-105

もともと神意を意味し、ここでは計り知れない帝の御心とのニュアンス。

〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景

人前では憚られること 01-105

「嘆きけり」の主語はない。「陪膳にさぶらふ限りは…嘆く/01-103」「近うさぶらふ限りは…嘆く/01-104」と対比的である。となれば、「嘆きけり」の主体は男でも女でも「さぶらふ限り」でない時、すなわち陰口として言ったと考えられよう。「たいだいしきわざなり」とは帝の前で口に出せる言葉ではない。

耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉

語りの対象:他の女御・更衣桐壺更衣を指す(忠臣の嘆息)

さるべき契りこそはおはしましけめ》 A
こうなる因縁が前世にあったのだろうが、


そこらの人の誹り恨みをも憚らせたまはず》B
周囲の誹り恨みも遠慮なさらず、


この御ことに触れたることをば道理をも失はせたまひ》C
あの方のこととなると見境もなくし、


今はたかく世の中のことをも思ほし捨てたるやうになりゆくは》D
今ではもうこんな風に国政への関心まで投げ出しておしまいでは、


いとたいだいしきわざなり》E
どんな災いを招くことやらと、


人の朝廷の例まで引き出で ささめき嘆きけり》 F
異国の朝廷の例まで引き合いにしてひそめき嘆くのです。

分岐型:(A→B+C+D→E→)F:A→B+C+D→E→F

 A→B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉:修飾 :倒置
〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉:中止法・独立文 //:挿入


〈反復型〉~AX:Aの言換えX ,AB:Aの同格B 〈分配型〉A→B*C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

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