このごろ明け暮れ御 桐壺07章03

2021-03-28

原文 読み 意味

このごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵 亭子院の描かせたまひて 伊勢貫之に詠ませたまへる 大和言の葉をも 唐土の詩をも ただその筋をぞ枕言にせさせたまふ

01083/難易度:★★★

このごろ/あけくれ/ごらんずる/ちやうごんか/の/おほむ-ゑ ていじ-の-ゐん/の/かか/せ/たまひ/て いせ/つらゆき/に/よま/せ/たまへ/る やまと-ことのは/を/も もろこし/の/うた/を/も ただ/その/すぢ/を/ぞ/まくらごと/に/せ/させ/たまふ

このごろ明け暮れにご覧になるのは長恨歌の絵屏風で、それは亭子院(宇多法王)が絵師に描かせ、伊勢や貫之に歌を詠ませになったもので、和歌でも漢詩でも決まってあの方の思い出話に合致する筋を取り上げそれを枕に帝は昔語りをお始めになるのです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • をも…をも…をぞ…にせさせたまふ 二次元構造

〈[帝]〉このごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵 〈亭子院の〉描かせたまひて 伊勢貫之に詠ませたまへる 大和言の葉をも 唐土の詩をも ただその筋をぞ枕言にせさせたまふ

助詞と係り受け

このごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵 亭子院の描かせたまひて 伊勢貫之に詠ませたまへる 大和言の葉をも 唐土の詩をも ただその筋をぞ枕言にせさせたまふ

「長恨歌の御絵」と「亭子院の…詠ませたまへる」の関係は、「主語述語の関係」と考えると、伊勢や貫之は漢詩人として有名であるわけではないので、「唐土の詩をも」が何を指すか不明となる。この矛盾から抜け出るためには、「主語述語」以外の関係をさぐるところから始めなければならない。

「亭子院の描かせたまひて伊勢貫之に詠ませたまへる」(A「主格」のB連用形C連体形/BとCは並列):「長恨歌の御絵」に対する同格説明


「大和言の葉をも唐土の詩をもただその筋をぞ枕言にせさせたまふ」:帝のこの時の動作

ごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌御絵 亭子院描かたまひ 伊勢貫之詠またまへ 大和言の葉 唐土 ただそ枕言させたまふ

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:せ せ る させ

  • :使役・す・連用形
  • :使役・す・連用形
  • :存続・り・連体形
  • させ:尊敬・さす・連用形
敬語の区別:御覧ず 御 たまふ たまふ させたまふ

このごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌の絵 亭子院の描かせたまひて 伊勢貫之に詠ませたまへる 大和言の葉を も 唐土の詩を も ただその筋を ぞ枕言にせさせたまふ

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

長恨歌の御絵 01083:語り手の善意がもたらした読みの混乱

この部分、なぜ貫之が漢詩を詠むのか、通読不能とされて来た。しかし、「亭子院の描かせたまひて伊勢貫之に詠ませたまへる」を語り手による御絵の説明としてカッコに入れ、「このごろ明け暮れ御覧ずる長恨歌の御絵 大和言の葉をも唐土の詩をもただその筋をぞ枕言にせさせたまふ」と考えれば難読箇所はない。いつもご覧の長恨歌屏風から、歌でも漢詩でも桐壺の思い出をダブらせて繰り返し読み味わったことをいう。「その筋」は桐壺の思い出と長恨歌のストーリーと合致する箇所。
なお、「亭子院の描かせたまひて」の「せ」について、使役説と尊敬説が拮抗する。のちに、「絵に描ける楊貴妃の容貌はいみじき絵師といへども(桐壺)」と出てくる点から判断すれば、この屏風に絵を描いたのは絵師である。また、「御屏風四帖に内裏の御手書かせたまへる(若菜上)」から考え、帝自身が描くなら「亭子院の御手描かせたまひて」とでもなろう。伊勢貫之に詠ませたとの対句構造からも、絵師に描かせたと使役に取るのがよいが、文脈上の主体は帝であるから、帝の意向で書かれたと考えれば尊敬説も成り立つ。焦点距離をどこに合わせるかの問題であり、その区別はさして重要とは思えない。

亭子院 01083

宇多天皇(867-931)在位(887-897)の院号。

枕言 01083

口癖となってする話、繰り言。

〈テキスト〉を紡ぐ〈語り〉の技法

同格「の」の導出 01083

「長恨歌の御絵」という連体格「の」を同格「の」に見立てることで、当該箇所を導出してみよう。
同格「の」の基本形:「AのD連体形」(長恨歌の 伊勢貫之に詠ませたまへる)
「の」は同格だから「AのB、D連体形B」と同じ名詞を代入でき
変形一:「AのB D連体形B」(長恨歌の御絵 伊勢貫之に詠ませたまへる御絵)
非文法的なので、後ろの名詞は省略する
変形二:「AのB D連体形」(長恨歌の御絵 伊勢貫之に詠ませたまへる)
「亭子院/描く/せたまふ」という情報を、「D連体形」と並列の形で補えば、当該箇所ができあがる。
最終形:「長恨歌の御絵 亭子院の描かせたまひて 伊勢貫之に詠ませたまへる」

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