やもめ住みなれど 054 ★★☆
原文 読み 意味 桐壺第05章05@源氏物語
やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる
やもめ-ずみ/なれ/ど ひと/ひとり/の/おほむ-かしづき/に とかく/つくろひ-たて/て めやすき/ほど/にて すぐし/たまひ/つる やみ/に/くれ/て/ふし/しづみ/たまへ/る/ほど/に くさ/も/たかく/なり のわき/に/いとど/あれ/たる/ここち/し/て つきかげ/ばかり/ぞ やへむぐら/に/も/さはら/ず/さし-いり/たる
母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。
文構造&係り受け 01-054
主述関係に見る文構造(ど…に…つくろひ立てて…にて過ぐしたまひつる:二次|に…も高くなり…に…心地して…ばかりぞ…差し入りたる:二次)
〈[母君]〉やもめ住みなれど 人一人[=桐壺更衣]の御かしづきにとかくつくろひ立てて めやすきほどにて過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 〈[家の様]〉〈草〉も高くなり野分にいとど荒れたる心地して 〈月影〉ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる
色分:〈主語〉助詞・述語 [ ]:補充 //挿入 |:休止 @@・@@・@@・@@:分岐
機能語に見る係り受け
やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる
- やもめ住みなれど→…つくろひ立てて・…過ぐしたまひつる/並列による分岐
- 人一人の御かしづきにとかくつくろひ立てて・めやすきほどにて過ぐしたまひつる/並列
- 臥し沈みたまへるほどに→心地す
- 心地して→月影ばかりぞ…差し入りたる
「過ぐしたまひつる」と「差し入りたる」ともに連体中止系で対句になっている。の関係性が不明である。「つ」が完了、「たり」が継続。二つの助動詞により、過去と現在の対比が鮮やかになされている。
「やもめ住みなれど…過ぐしたまひつる」「闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに…月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる」:桐壺更衣の死以前と以後の対比(完了「つ」と存続「たり」の使い分けに注意)
「人一人の御かしづきにとかくつくろひ立てて」「めやすきほどにて過ぐしたまひつる」:並列
「草も高くなり」「野分にいとど荒れ」(並列)→「たる心地す」
助詞・助動詞の識別:なれ つる る たる ず たる
- なれ:断定・なり・已然形
- つる:完了・つ・連体形/余韻を伴いながら半ばそこで切れ、半ばは「その家が」と体言を補って以下に続く。連体中止法とでも呼びたい感じ。
- る:存続・り・連体形
- たる:存続・たり・連体形
- ず:打消・ず・連用形
- たる:存続・たり・連体形/係助詞「ぞ」の結びだが、「つる」と呼応しつつ、連体中止法風に響く。
やもめ住みなれど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかりぞ 八重葎にも障はらず差し入りたる
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
敬語の区別:御 たまふ たまふ
やもめ住みなれ ど 人一人の御かしづきに とかくつくろひ立てて めやすきほどにて 過ぐしたまひつる 闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに 草も高くなり 野分にいとど荒れたる心地して 月影ばかり ぞ 八重葎に も障はらず差し入りたる
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪;失われた意味を求めて
闇に暮れて 01-054:変わるもの
桐壺更衣が亡くなった現在の様子。過去および月影と対比されている。心象風景と外界の境界が解け合っている。
月影ばかり 01-054:変わらざるもの
草深くなる前と変わりなく、今も昔も月の光は届く。
やもめ住み 01-054
「父の大納言は亡くなりて/01-006」とある。
人一人の御かしづき 01-054
桐壺更衣のこと。
とかくつくろひ立てて 01-054
あれこれと装いを凝らして。
めやすき 01-054
見た目が感じよい。洗練されている。
過ぐしたまひつる 01-054
お過ごしになってきた。ここまでは桐壺更衣の生前の様子を忍んでいる。
いとど荒れたる 01-054
母君の家の庭のようすだが、母君の心象風景にもなっている。
耳でとらえる;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:桐壺更衣の母/桐壺更衣/命婦(語り手の推定)/里の様子
《やもめ住みなれど》 A
母君は夫を亡くしたやもめの身ながら、
《人一人 の御かしづきにとかくつくろひ立てて・めやすきほどにて過ぐしたまひつる》B・C
娘一人の養育のためにとかく邸内は数寄を凝らし、世間に恥ずかしくない暮らしぶりをして来られたましたが、
《闇に暮れて臥し沈みたまへるほどに・ 草も高くなり野分にいとど荒れたる心地して》D・E
娘を失ってからは悲嘆のあまり床に臥せ塞ぎ込んでしまわれたため、草も伸びほうだいでその上今日の野分で益々荒れた感じがして、
《月影ばかりぞ八重葎にも障はらず差し入りたる》F
月の光だけが八重葎にもさえぎられずに射し込んでおりました。
分岐型・中断型:A<B+C<|D<E<F<|:A<B+C、D<E<F
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置
〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用