おぼえいとやむごと 011 ★★☆

2020-09-03★★☆:文の構造を捉え直す01 桐壺,04 公的生活/出世・祝賀・行事,06 時間/時刻・昼夜・季節・時代,反復型

桐壺 原文 かな書き 現代語訳 第2章05

おぼえいとやむごとなく上衆めかしけれど わりなくまつはさせたまふあまりに さるべき御遊びの折々何事にもゆゑある事のふしぶしにはまづ参う上らせたまふ ある時には大殿籠もり過ぐしてやがてさぶらはせたまひなど あながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに おのづから軽き方にも見えしを

おぼエ/いと/やむごとなく/じやうず-めかし/けれ/ど わりなく/まつはさ/せ/たまふ/あまり/に さるべき/おほむ-あそび/の/をりをり/なにごと/に/も/ゆゑ/ある/こと/の/ふしぶし/に/は/まづ/まうのぼら/せ/たまふ あるとき/に/は/おほとのごもり/すぐし/て/やがて/さぶらは/せ/たまひ/など あながち/に/お-まへ/さら/ず/もてなさ/せ/たまひ/し/ほど/に おのづから/かろき/かた/に/も/みエ/し/を

エ:や行の「え」

帝からの引きはこれ以上にないほどで女御の風格をお備えでしたのに、帝がむやみと側にお留になるばかりに、立派な管絃の会の折りや格式あるどんな行事にも真っ先にこの方をお召し上げになる、時には共寝したまま起きそびれそのまま側仕えをおさせになるなど、強引にお手元からお放しにならないうちに、おのずと品下る方と見られもしたものですが、

解釈の決め手

大殿籠もり過ぐし:傾国のおそれ

古代の帝は、夜は神事として、賢所に納めてある三種の神器のひとつの草薙の剣と添い寝をしたことから、後宮で性を営んだ後、夜のうちに部屋に戻って休むのが生活のスタイルであった。現実世界の天皇はおそらくそうしたスタイルを忠実に実行したとは考えにくいが、物語の帝は、すくなくとも物語の最初の天皇として位置するこの帝は、聖天子を理想として描かれていることから、後宮で寝過ごすことは、単に朝の政務を怠ったことを意味するのみならず、帝として破格の行為であった。

ここがPoint

分岐その3

読みの心構えとしては、帝が桐壺更衣を「わりなくまつはさせたまふあまりに(A)」どうだというのかを見てゆくことになる。
「さるべき御遊びの折々(B)」云々、「ある時には大殿籠もり過ぐして(C)」云々は(A)の具体例、その具体例をもう一度まとめ直したのが「あながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに(D)」であり、(D)は(A)の言い換えになっている。
この言い換えこそが、分岐が戻った証拠であり、分かれた文脈をくっつける糊白の働きをするのである。

桐壺 注釈 第2章05

おぼえ 01-011

帝からの女性であれば愛情、男性であれば引き立て。

やむごとなく 01-011

やむことがなく。最上の。

上衆めかしけれど 01-011

身分が高い人のように傍からは見えながら。

やむごとなき 01-011

止むことがないの原義で、この上なく高貴な。

わりなく 01-011

理屈に合わず。身分に合わない務めに対して「わりなし」。

あまりに 01-011

後宮内で側にまつわせておくのはともかくも、それが習慣化したあまりに、公然たる公の行事でも、真っ先に帝の側に呼びつけたということ。帝の妻である後宮の女性が衆目の集まる場面に出てくること自体尋常でないから、帝の側仕え要員とみなされているのである。

さるべき 01-011

それに相応しいという意味で、相当な・立派な。それなりの意味ではない。

御遊び 01-011

管弦楽の宴。

ゆゑ 01-011

一級の文化(行事)。宮中の公的な、即ち、代々の天皇が行ってきた、天皇個人の問題ではすまないはずの年中行事。

参う上ら 01-011

後宮の女性が里の局から帝のもとに参上すること。

やがて 01-011

そのまま。

さぶらはせ 01-011

身の回りの世話をさせる。これは帝付きの女房の務めであり、身分ある更衣がすることではない。

あながちに 01-011

無理無体に。

御前去らずもてなさせたまひし 01-011

「させ」は使役。「まつはさせ」「参う上らせ」の「させ」「せ」と同じである。「去らず」と「もてなす」は並列で使役「させ」にかかる。帝の御前から下がらせず、世話をおさせになった。「去る」「もてなす」は桐壺更衣に帝がそうさせた。「たまひ」は尊敬語。

語りの対象&構造型

対象:桐壺更衣

おぼえいとやむごとなく 上衆めかしけれど》A
帝からの引きはこれ以上にないほどで、女御の風格をお備えでしたのに、


わりなくまつはさせたまふあまりに》B
帝がむやみと側にお留になるばかりに、


さるべき御遊びの折々 何事にもゆゑある事のふしぶしには まづ参う上らせたまふ》 C
立派な管絃の会の折りや格式あるどんな行事にも真っ先にこの方をお召し上げになる、


ある時には大殿籠もり過ぐして やがてさぶらはせたまひ》 D
時には共寝したまま起きそびれそのまま側仕えをおさせになるなど、


などあながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに》E
強引にお手元からお放しにならないうちに、


おのづから軽き方にも見えしを》F
おのずと品下る方と見られもしたものですが、

分岐型・中断型・反復型・分配型:A<B<(Cφ*C+D<)~BE<F:A<B<~BE<F、C、*C+D<~BE(EはBの言い換え)

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:あまりに…ほどに…にも見えし (を)/三次

〈[桐壺更衣]〉おぼえいとやむごとなく上衆めかしけれ  〈[帝]〉わりなくまつはさせたまふ あまりに 〈[帝]〉さるべき御遊びの折々何事にもゆゑある事のふしぶしにはまづ参う上らせたまふ/ ある時には大殿籠もり過ぐしてやがてさぶらはせたまひなど  あながちに御前去らずもてなさせたまひし ほどに おのづから軽き方にも見えし

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

分岐サイン

「もてなさせたまひしほどに」が「まつはさせたまふあまりに」の言い換え、直前で分岐終了のサインでもある。

係り受け&主語述語

「おぼえいとやむごとなく」「上衆めかしけれ」(並列)→「ど」


「わりなくまつはさせたまふあまりに」(理由)→「おのづから軽き方にも見えし」


「さるべき御遊びの折々何事にもゆゑある事のふしぶしにはまづ参う上らせたまふ」(挿入一):帝がむやみと側にお留になる具体例その一


「ある時には大殿籠もり過ぐしてやがてさぶらはせたまひなど」(挿入二):帝がむやみと側にお留になる具体例その二


「さぶらはせたまひなど」→「もてなさせたまひし」


「あながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに」:「わりなくまつはさせたまふあまりに」と同格(挿入句が長くなったための言い直し)


「おのづから軽き方にも見えしを」→「いと心ことに思ほしおきてたれば/01-012」→「一の皇子の女御は思し疑へり/01-012」

附録

助詞の識別

おぼえいとやむごとなく上衆めかしけれ わりなくまつはさたまふあまり さるべき御遊び折々何事 ゆゑある事ふしぶし まづ参う上らたまふ ある時 大殿籠もり過ぐしやがてさぶらはたまひなど あながちに御前去らもてなさたまひほど おのづから軽き方 見え

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

敬語の識別

おぼえいとやむごとなく上衆めかしけれど わりなくまつはさせたまふあまりに さるべき遊びの折々何事にもゆゑある事のふしぶしにはまづ参う上らたまふ ある時には大殿籠もり過ぐしてやがてさぶらはたまひなど あながちに御前去らずもてなさせたまひしほどに おのづから軽き方にも見えしを

尊敬語 謙譲語 丁寧語