かく忌ま忌ましき身 桐壺06章16
原文 読み 意味
かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも いと人聞き憂かるべし また見たてまつらでしばしもあらむは いとうしろめたう思ひきこえたまひて すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり
01080/難易度:☆☆☆
かく/いまいましき/み/の/そひ/たてまつら/む/も いと/ひとぎき/うかる/べし また/み/たてまつら/で/しばし/も/あら/む/は いと/うしろめたう/おもひ/きこエ/たまひ/て すがすが/と/も/え/まゐら/せ/たてまつり/たまは/ぬ/なり/けり
このように不吉な身が付き添い申すのもまことに世間での通りが悪かろうし、と言ってお顔を拝み申さずしばしもいるなど全く気が気ではなかろうと、ご案じ申し上げて、すんなりとは参内させてお上げにはなりませんでした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- もえ参らせたてまつりたまはぬなりけり 四次元構造
〈[母君]〉かく忌ま忌ましき〈身の〉添ひたてまつらむ〈[の]〉もいと人聞き憂かるべしまた見たてまつらでしばしもあらむ〈[こと]〉はいとうしろめたう思ひきこえたまひてすがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり
助詞と係り受け
かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも いと人聞き憂かるべし また見たてまつらでしばしもあらむは いとうしろめたう思ひきこえたまひて すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり
「かく忌ま忌ましき〈身の〉添ひたてまつらむもいと人聞き憂かるべし」「また見たてまつらでしばしもあらむはいとうしろめたう」(Aも、またBも)(並列)→「思ひきこえたまひ」
「身の添ひたてまつらむ」:A「主格」のB連体形
「思ひきこえたまひ」:「思ふ」+謙譲語(「思ふ」の対象である若宮に対する敬意)「きこえ」+尊敬語(「思ふ」の主体である母北の方に対する敬意)「たまひ」
「え参らせたてまつりたまはぬ」:「え…ぬ」+「参る」+使役「せ」+謙譲語「たてまつり」+尊敬語「たまひ」
かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむも いと人聞き憂かるべし また見たてまつらでしばしもあらむは いとうしろめたう思ひきこえたまひて すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬなりけり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:む べし む せ ぬ なり けり
- む:仮定・む・連体形(準体用法、後に「こと」等を補う)
- べし:推量・べし・終止形
- む:仮定・む・連体形(準体用法、後に「こと」等を補う)
- せ:使役・す・連用形
- ぬ:打消・ず・連体形
- なり:断定・なり・連用形
- けり:呼び起こし・けり・終止形
敬語の区別:たてまつる きこゆ たまふ 参る たてまつる たまふ
かく忌ま忌ましき身の添ひたてまつらむ も いと人聞き憂かるべし また見たてまつらでしばしもあらむ は いとうしろめたう思ひきこえたまひて すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬ なり けり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
添ひたてまつらむ 01080
若宮と宮中に同道すること。
うしろめたう 01080
愛着のある対象を見守りたい思いで、それがかなわない時の強い感情。(ここも形容詞の連用形+思ふ)
思ひきこえたまひ 01080
「思ひ」+謙譲語「きこえ」+尊敬語「たまひ」。母君に尊敬語が扱われているので、ここは地の文。「うしろめたう」までが会話を直説法で表している。
すがすがともえ参らせたてまつりたまはぬ 01080
気持ちが停滞するさま。「え…ぬ」+「参る」+使役「せ」+謙譲語「たてまつり」+尊敬語「たまひ」。