源氏の君は御あたり 桐壺09章10
原文 読み 意味
源氏の君は御あたり去りたまはぬを ましてしげく渡らせたまふ御方はえ恥ぢあへたまはず いづれの御方も われ人に劣らむと思いたるやはある とりどりにいとめでたけれど うち大人びたまへるに いと若ううつくしげにて 切に隠れたまへど おのづから漏り見たてまつる
01136/難易度:★★☆
げんじ-の-きみ/は/おほむ-あたり/さり/たまは/ぬ/を まして/しげく/わたら/せ/たまふ/おほむ-かた/は/え/はぢ-あへ/たまは/ず いづれ/の/おほむ-かた/も われ/ひと/に/おとら/む/と/おぼい/たる/やは/ある とりどり/に/いと/めでたけれ/ど うち-おとなび/たまへ/る/に いと/わかう/うつくしげ/にて せち/に/かくれ/たまへ/ど おのづから/もり/み/たてまつる
源氏の君は帝のお側からお離れにならないので、誰にもまして帝が足繁くお通いになる藤壺の宮は恥らい通すこともならず、そもそもどの女御方も自分が人より劣っているとお思いになるはずもなく、お一方お一方が魅力に溢れていらっしゃるがやや年嵩であられるのに引き換え、藤壺の宮はとても若く愛らしく懸命にお隠れになるが、魅力がおのずと漏れ出し若宮の目に留まるのでした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- は…どおのづから漏り見たてまつる 三次元構造
〈源氏の君〉は御あたり去りたまはぬを ましてしげく渡らせたまふ〈御方[=藤壺]〉はえ恥ぢあへたまはず @〈いづれの御方〉も @/〈われ〉人に劣らむと思いたるやはある/@ とりどりにいとめでたけれど うち大人びたまへるに@いと若ううつくしげにて 切に隠れたまへど おのづから漏り見たてまつる
助詞と係り受け
源氏の君は御あたり去りたまはぬを ましてしげく渡らせたまふ御方はえ恥ぢあへたまはず いづれの御方も われ人に劣らむと思いたるやはある とりどりにいとめでたけれど うち大人びたまへるに いと若ううつくしげにて 切に隠れたまへど おのづから漏り見たてまつる
「源氏の君は…おのづから漏り見たてまつる」:大構造
「え恥ぢあへたまはず」→「いと若ううつくしげにて」/「え恥ぢあへたまはず」→「切に隠れたまへど」も可
「渡らせたまふ御方は」→「え恥ぢあへたまはず」→(「いと若ううつくしげにて」)→「切に隠れたまへど」→「おのづから漏り見たてまつる」
「いづれの御方も」→「とりどりにいとめでたけれど」→「うち大人びたまへるに」
「われ人に劣らむと思いたるやはある」:挿入(帝の妻としての心構え) 「やは」は反語 どの妻も人に劣るという考えはない
「うち大人びたまへる」「いと若ううつくしげにて」:藤壺と他の女御更衣との対比
源氏の君は御あたり去りたまはぬを ましてしげく渡らせたまふ御方はえ恥ぢあへたまはず いづれの御方も われ人に劣らむと思いたるやはある とりどりにいとめでたけれど うち大人びたまへるに いと若ううつくしげにて 切に隠れたまへど おのづから漏り見たてまつる
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:ぬ せ ず む たる る
- ぬ:打消・ず・連体形
- せ:尊敬・す・連用形
- ず:打消・ず・連用形
- む:推量・む・終止形
- たる:存続・たり・連体形
- る:存続・り・連体形
敬語の区別:御 たまふ せたまふ 御 たまふ 御 たまふ たまふ たてまつる
源氏の君は御あたり去りたまはぬ を ましてしげく渡らせたまふ御方はえ恥ぢあへたまはず いづれの御方も われ人に劣らむ と思いたる やはある とりどりにいとめでたけれど うち大人びたまへる に いと若ううつくしげにて 切に隠れたまへど おのづから漏り見たてまつる
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
源氏の君 01136
源氏性を受けて臣下となったことが知られる。
まして 01136
ほかの夫人たちにもまして。
え恥ぢあへたまはず 01136
「あへ」はすっかりし切る、「え…ず」で、それができないの意味。恥ずかしいがって顔を合わさないで通すわけにはいかない。
思いたるやはある 01136
「やは」は反語。「思(おぼ)い」は「思(おぼ)す」の連用形のイ音便。
とりどりに 01136
多くの要素が集まる集団においてそれぞれが独自の価値をもつ。
めでたけれ 01136
「愛づ」+「いたし(甚だしい)」。
うち 01136
すこし、印象として。
漏り見たてまつる 01136
意図して見るのではなく、自然と漏れてくる様子を伺う。母に似ているからと意識するのは後のこと。帝が足繁く通うから漏れ見る機会が多かった。他の婦人より若かった。この二点。