何事かあらむとも思 037 ★★★

2020-09-07★★★:源氏千年の謎に挑む01 桐壺,分岐型,なり(断),,

桐壺 原文 かな書き 現代語訳 第4章02

何事かあらむとも思したらず さぶらふ人びとの泣きまどひ 主上も御涙のひまなく流れおはしますを あやしと見たてまつりたまへるを よろしきことにだにかかる別れの悲しからぬはなきわざなるを ましてあはれに言ふかひなし

なにごと/か/あら/む/と/も/おぼし/たら/ず さぶらふ/ひとびと/の/なき/まどひ うへ/も/おほむ-なみだ/の/ひま/なく/ながれ/おはします/を あやし/と/み/たてまつり/たまへ/る/を よろしき/こと/に/だに/かかる/わかれ/の/かなしから/ぬ/は/なき/わざ/なる/を まして/あはれ/に/いふかひ-なし

何が起ころうとしているのかもお分かりでなく、側仕えの人々が泣きまどう姿や帝が涙の干る間もなく泣いておられご様子を理解もならず見守っておいでのご様子を、栄転などよい理由であっても母を亡くした父子が離れ離れになるのは悲しい重大事であるのに、まして父である帝のもとを離れ東宮資格を失いかねない里下がりとあっては哀れで言い表す言葉が見つかりませんでした。

解釈の決め手

何事かあらむとも思したらず

父の目が利く宮中を出て母の実家で暮らすことになるが、後ろ盾のない光の君に待ち受けている将来不安を何も感じないこと。「む」はこれからの出来事。これを無視して、母の死について何も理解しないは大間違い。

よろしきことにだに かかる別れの悲しからぬはなきわざなるを ましてあはれに言ふかひなし:父帝のもとを離れることの意味

栄転などよい理由であっても母を亡くした父子が離れ離れになるのは悲しい重大事であるのに、まして父である帝のもとを離れ東宮資格を失いかねない里下がりとあっては哀れで言い表す言葉が見つかりませんでした。この一文の解釈は「サバイバルゲーム」を参照。

ここがPoint

サバイバルゲーム

これも解釈がまちまちなので、以下の三点を分けて考えたい。
「よろしきことに」おける別れとはどんな別れか。
「かかる別れ」は何を指すか。
なぜ「まして」なのか。
「よろしきことに」おける別れとは、今は別れが悲しいけれど、この後悲しみ以上の慶びが見込める別れである。ただ、これはあくまで仮定(譲歩)の話。希望がもてそうな場合でもこのような別れは悲しいのに、このような別れは希望すらなくという流れ。「かかる別れ」はもちろん、すでに死別した母との別れではない。また「このような別れ」という仮定の中である。この場合の別れは「まして」の後。
以上を続けると「明るい未来が見込まれる場合でさえ、母を亡くした子が父と別れることは悲しいに決まっている重大事なのに」(「わざ」は神意のように深い意味のこめられた事柄)「ましてあはれに言ふかひなし」は、ましてこの場合、哀れで言葉が見つからないという意味。「この場合」が意味する重みを捉えなければ、語り手の真意はつかめない。
「まして御子が父帝から離れ、両親もなく後ろ盾のない実家で生活するとなると東宮資格は消えたも同然で、未来は絶望的である、かわいそうでかわいそうで言葉にならない」
何度も口にするが、御子も夫人も生き残りをかけて、争奪戦を戦っているのだ。その点を押さえないとメロドラマで終わってしまう。

分岐その5

「ましてあはれに言ふかひなし」の対象は、母が亡くなった事情もわからず、父帝が泣き濡れておられるのを不思議に御覧になっている幼い光源氏の様子だから、「あやしと見たてまつりたまへるを」の「を」は格助詞。その様を「言ふかひなし」とつながる。従って、「よろしきことにだにかかる別れの悲しからぬはなきわざなるを」が挿入句で分岐となっている。このように挿入句は本文と独立したフレーズなので糊代なしに投げ込まれるのが特徴である。

桐壺 注釈 第4章02

主上 01-037

帝。

あやし 01-037

合理的な解釈ができないことから生じる感情。

を 01-037

終助詞、語り手の思い入れ。文を切らずに「言ふかひなし」につなげることもできる。その場合は目的格の格助詞。

語りの対象&構造型

対象:光源氏光源氏付きの女房主上(帝)語り手の思い入れ

何事かあらむとも思したらず》 A
何が起ころうとしているのかもお分かりでなく、


さぶらふ人びとの泣きまどひ・ 主上も御涙のひまなく流れおはします を・あやしと見たてまつりたまへる 》B・C・D
側仕えの人々が泣きまどう姿や帝が涙の干る間もなく泣いておられご様子を理解もならず見守っておいでのご様子を、


よろしきことにだにかかる別れの悲しからぬはなきわざなるを》E
栄転などよい理由であっても母を亡くした父子が離れ離れになるのは悲しい重大事であるのに、


ましてあはれに言ふかひなし》 F
まして東宮資格を失いかねない里下がりとあっては哀れで言い表す言葉が見つかりませんでした。

分岐型・中断型:A<B+C<D<[E<]F:A<B+C<D<F、E

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:を…を…言ふかひなし/三次

〈[御子]〉 〈何事〉かあらむ とも思したらず さぶらふ人びとの泣きまどひ 主上も御涙のひまなく流れおはします あやしと見たてまつりたまへる  /よろしきことにだにかかる別れの悲しからぬはなきわざなる / 〈[我=語り手]〉ましてあはれに言ふかひなし

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

係り受け&主語述語

「何事かあらむとも思したらず」→「あやしと見たてまつりたまへる」


「さぶらふ人びとの泣きまどひ」「主上も御涙のひまなく流れおはします」(並列)→「を」→「見たてまつりたまへる」


「あやしと見たてまつりたまへるを」→「まして言ふかひなし」


「よろしきことにだにかかる別れの悲しからぬはなきわざなるを」:挿入(「を」は終助詞で文の終止)で、語り手の感情移入

附録

助詞の識別

何事あら 思したら  さぶらふ人びと泣きまどひ 主上御涙ひまなく流れおはします あやし見たてまつりたまへ  よろしきこと だにかかる別れ悲しから なきわざなる  ましてあはれに言ふかひなし

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

敬語の識別

何事かあらむと も思したら ず さぶらふ人びとの泣きまどひ 主上も涙のひまなく流れおはしますを あやしと見たてまつり たまへる を よろしきことに だにかかる別れの悲しからぬ はなきわざなる を ましてあはれに言ふかひなし

尊敬語 謙譲語 丁寧語