故大納言の遺言あや 088
故大納言の遺言あやまたず宮仕への本意深くものしたりしよろこびは 原文 読み 意味 桐壺第7章08/源氏物語
故大納言の遺言あやまたず 宮仕への本意深くものしたりしよろこびは かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ 言ふかひなしやと うちのたまはせて いとあはれに思しやる
こ-だいなごん/の/ゆいごん/あやまた/ず みやづかへ/の/ほい/ふかく/ものし/たり/し/よろこび/は かひ/ある/さま/に/と/こそ/おもひわたり/つれ いふかひ-なし/や/と/うち-のたまはせ/て いと/あはれ/に/おぼし-やる
故大納言の遺言をあやまたず宮仕えの宿願を堅く守ったことへの返礼は、甲斐あるものにとずっと思って来たが、そうは言っても詮ないことよと、ぽつりとおっしゃって桐壺の生涯を不憫にお思いやりになる。
大構造(とうちのたまはせて…思しやる/五次)& 係り受け
@〈[桐壺更衣]〉故大納言の遺言あやまたず 宮仕への本意深くものしたりし〈よろこび〉は かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ 言ふかひなしやと@ 〈[帝]〉うちのたまはせて いとあはれに思しやる
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
「こそ…已然形」は後ろに逆接でつづく。前後で同色でもよいが、後ろに主情報がくるので色分けした。
「あやまたず」→「ものしたりし」
桐壺 注釈 第7章08
宮仕への本意 01-088
「ただこの人の宮仕への本意かならず遂げさせたてまつれ/01-069」とあり、ここでも桐壺更衣の本意である。帝はそれに報いようと思っていた。
ものし 01-088
代動詞でさまざまな動詞の代わりをする。守るほどの意味。
よろこび 01-088
感謝の気持ち、お礼。ここまで、若宮について述べられていないので、ここでの「よろこび」は、桐壺更衣を女御や皇后・中宮にすることだろう。
思ひわたり 01-088
「わたり」とあるので、長時間にわたってそう願っていたことがうかがえる。
言ふかひなしや 01-088
桐壺更衣が亡くなった今では、言っても甲斐がない。
うちのたまはせ 01-088
「うち」とあるので、つい口に出た。「言ふかひなしや」の部分がついため息交じりに口をついたのであろう。
思しやる 01-088
「やる」は対象が空間的に離れていることを示す。「わたる」と「やる」の使い分けが面白い。
助詞の識別/助動詞の識別:
故大納言の遺言あやまたず 宮仕への本意深くものしたりしよろこびは かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ 言ふかひなしやと うちのたまはせて いとあはれに思しやる
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
敬語の識別:
故大納言の遺言あやまたず 宮仕への本意深くものしたり しよろこびは かひあるさまに と こそ思ひわたりつれ 言ふかひなしや と うちのたまはせて いとあはれに思しやる
尊敬語 謙譲語 丁寧語
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:桐壺の父/桐壺更衣/帝
《故大納言の遺言あやまたず 宮仕への本意深くものしたりしよろこびは》A
故大納言の遺言をあやまたず宮仕えの宿願を堅く守ったことへの返礼は
《かひあるさまにとこそ思ひわたりつれ・言ふかひなしやと》B・C
甲斐あるものにとずっと思って来たが、そうは言っても詮ないことよと、
《うちのたまはせて・いとあはれに思しやる》D・E
ぽつりとおっしゃって桐壺の生涯を不憫にお思いやりになる。
分岐型:(A<B<C<)D<E:A<B<C<D<E
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用