若宮のいとおぼつか 059
原文 読み 意味 桐壺第05章10@源氏物語
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
わかみや/の/いと/おぼつかなく つゆけき/なか/に/すぐし/たまふ/も こころぐるしう/おぼさ/るる/を /く/まゐり/たまえ/など はかばかしう/も/のたまは/せ/やら/ず むせかへら/せ/たまひ/つつ かつは/ひと/も/こころ-よわく/み/たてまつる/らむ/と おぼし-つつま/ぬ/に/しも/あら/ぬ/み-けしき/の/こころぐるしさ/に うけたまはり/はて/ぬ/やう/にて/なむ まかで/はべり/ぬる/とて おほむ-ふみ/たてまつる
若宮が何とも気がかりなまま、露深い里で泣きぬれてお過ごしになるのも、おいたわしくお思いですのに、早くご参内なさいなどと、はっきり口になさりもせず、むせ返ってしまわれながら、方や心弱い帝だと人も見ることだろうねと、はた目が気にならぬでもないご様子がお気の毒で、承り果てぬまままかり越した次第ですと、帝のお手紙をお渡しする。
文構造&係り受け 01-059
主述関係に見る文構造(とて…奉る:五次)
〈[帝]〉〈若宮〉のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを @とく参りたまへなど@ はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは@人も心弱く見たてまつるらむと@ 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむまかではべりぬるとて 〈[私=命婦]〉御文奉る
色分:〈主語〉助詞・述語 [ ]:補充 //挿入 |:休止 @@・@@・@@・@@:分岐
機能語に見る係り受け
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
この文は仰せ言を賜れた帝の状況説明。視点が命婦に移っている。
「若宮のいとおぼつかなく露けき中に過ぐしたまふも心苦しう」:帝のお気持ちを間接話法で伝える
「心苦しう思さるるを」→「のたまはせやらずむせかへらせたまひ」
「とく参りたまへなど」:帝の言葉を直説法で伝えるというより、帝に代わって命婦が母君に参内を勧めた言葉
「むすかへらせたまひつつ」→「思しつつまぬにしもあらぬ」
「かつは」は直前「つつ」の強調。
「人も心弱く見たてまつるらむ」:帝が周囲にもらした言葉
助詞・助動詞の識別:るる ず せ らむ ぬ に ぬ ぬ に ぬる
- るる:自発・る・連体形
- ず:打消・ず・連用形→むせかへらせたまひつつ・思しつつまぬにしもあらず
- せ:尊敬・す・連用形/「せたまふ」:最高敬語
- らむ:現在推量・らむ・終止形
- ぬ:打消・ず・連体形
- に:断定・なり・連用形
- ぬ:打消・ず・連体形
- ぬ:完了・ぬ・終止形
- に:断定・なり・連用形
- ぬる:完了・ぬ・連体形
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむと 思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうにてなむ まかではべりぬるとて 御文奉る
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
敬語の区別:たまふ 思す 参る たまふ のたまはす せたまふ たてまつる 思しつつむ 御 承る まかづ はべり 御 奉る
若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるる を とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ かつは人も心弱く見たてまつるらむ と 思しつつまぬ に しもあらぬ御気色の心苦しさに 承り果てぬやうに て なむ まかではべりぬる と て 御文奉る
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪;失われた意味を求めて
心弱く見たてまつるらむ 01-059:天子に求められるイメージ
一国を統べる帝王として気弱な面を示すことはマイナスに働く。
はかばかしう 01-059
物事がはきはき進む形容。
耳でとらえる;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:光の君/帝/母君/(帝の反対勢力)/命婦
《若宮のいとおぼつかなく 露けき中に過ぐしたまふも 心苦しう思さるるを》A
若宮が何とも気がかりなまま、露深い里で泣きぬれてお過ごしになるのも、おいたわしくお思いですのに、
《とく参りたまへなど はかばかしうものたまはせやらず むせかへらせたまひつつ》B
早くご参内なさいなどと、はっきり口になさりもせず、むせ返ってしまわれながら、
《かつは人も心弱く見たてまつるらむと思しつつまぬにしもあらぬ》C
方や心弱い帝だと人も見ることだろうねと、はた目が気にならぬでもないご様子がお気の毒で、
《御気色の心苦しさに・承り果てぬやうにてなむまかではべりぬるとて・御文奉る》D・E・F
承り果てぬまままかり越した次第ですと、帝のお手紙をお渡しする。
分岐型:A<B+C<D<E<F:A<B+C<D<E<F
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉 ※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置
〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用