あまたの御方がたを 016★★★

2020-09-0301 桐壺01章~10章☆☆☆:特別な問題点はない01 桐壺01章~10章,たり(完了)

桐壺 原文 かな書き 現代語訳 第2章10

あまたの御方がたを過ぎさせたまひてひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり

あまた/の/おほむ-かたがた/を/すぎ/させ/たまひ/て/ひまなき/おほむ-まへわたり/に ひと/の/み-こころ/を/つくし/たまふ/も げに/ことわり/と/みエ/たり

エ:や行の「え」

あまたのご夫人方の局を通り過ぎて間断がない、そうした帝の使者のお通いに、女性達が心をすり減らしになるのも、まことにもっともだと思えました。

解釈の決め手

御前渡り:迷宮の中心で待ちうける支配者

「前渡り」とは、男が女の元を寄らずに素通りする意味で一語の名詞である。「過ぎさせたまひて」は二重敬語であり、主語は帝と解するのが一般的であるが、その場合、「ひまなき」の意味は限定される。現代語の「ひま」は時間に関する表現だが、古語では、時間・空間のどちらにも使われる。時間的に「ひまなし」は頻度が多い、ひっきりなしの意味となり、空間的には隙間がない、すなわち行列の人数の多さを意味する。
ところで、夜の務めは、後宮の女性たちが帝の元に訪れるのが一般的である。時に帝が中宮などの元に赴くことがあるが、公家の日記に記述される程度にそれは特別な例外である。もし「前渡り」の主語を帝とするなら、「前渡り」自体が特例であり、なおかつ「ひまなき」という特殊な上に特殊なケースが述べられていることになる。この帝の特殊性を述べていると言えばそれまでだが、「前渡り」自体は特段臣下の非難を得ていない点からもわかるように、後宮では一般的な出来事だろう。したがって、この文のストレス(どの語が重要か)からして、帝がひっきりなしに通うという読みは自然ではない。さらに、次の文では、更衣が度々帝の元に参上したとあるのだから、帝も更衣もそれぞれが相手の元に度々訪れるのはさらに自然ではない。よって、帝を主語に立てるなら、「ひまなし」は行列の多さのみを意味することになる。しかし、この文で行列の多さは文のストレスではない。素直に読めば、女御達を悩ませたのは、行列の多さではなく頻度であろう。では、主語は一体何か。じつは答えは文中にある。
次文に「御送り迎への人/01-017」とあり、「御迎への人」、すなわち帝の使者が、「御前渡り」の主語である。使者は、今夜の夜伽の相手の元へ出向き、迎えて戻る役目をするのだろう。灯りを持つ者、前払い、使者、供回り、迎えの人などからなる行列だ。帝自身ではないが、それら使者の一行が今夜も自分の部屋の前を通り過ぎて行く、それでじりじり心を砕くのだ。
この文は使者が迎えに行く時のこと、次の文は、桐壺更衣が帝の元に参る時のこと。ふたつの文は時間的にも連続しているのだ。
なお、「過ぎさせたまひて」(最高敬語ではなく、使役+尊敬)は連用法だから用言につづくしかない。既存の解釈は「御前渡り」に続けているようだが、そうするためには格助詞「の」が必要だ。「過ぎさせたまひて」がつづく用言は「ひまなき」以外にない。「人の」は主格で、「尽くしたまふ」が述語。

桐壺 注釈 第2章10

御方がた 01-016

一般には女御をさすが、女御は二三人からせいぜい五人を満たない。「あまたの」とあるのでここは更衣を含める。

過ぎさせたまひて 01-016

主語を帝と考えて「させたまひ」は最高敬語と考える説がある。しかし、帝が度々後宮女性の元に通うのはおかしい。帝が頻繁に桐壺に通い、桐壺も度々帝の元に通うとなると、夜の内に行ったり来たりとなる。それは自然ではない。「させ」はここでは、人に~させるの使役。「御送りの人/01-017」を桐壺の元に送ったと考えるのが自然だと思う。

語りの対象&構造型

対象:他の女御・更衣の使者/語り手の感想

あまたの御方がた を過ぎさせたまひて・ひまなき・御前渡りに》A・B・C
あまたのご夫人方の局を素通りされ、休むひまない帝のお通いに、


人の御心を尽くしたまふも・ げにことわりと見えたり》D・E
人の心をすり減らしになるのも、まことにもっともだと思えました。

分岐型:A<B<C<D<E:A<B<C<D<E

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:も…と見えたり/三次

〈[帝]〉あまたの御方がたを過ぎさせたまひて ひまなき御前渡りに 人の御心を尽くしたまふ  〈[私=語り手]〉げにことわりと見えたり

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

係り受け&主語述語

「あまたの御方がたを過ぎさせたまひて」(連用法)→「ひまなき」


「ひまなき御前渡りに」(原因)


「人の」(主語)「(御心を)尽くしたまふも」(述語)

附録

助詞の識別

あまた御方がた過ぎさせたまひ ひまなき御前渡り 人御心尽くしたまふ げにことわり見えたり

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

敬語の識別

あまたの方がたを過ぎさせたまひて ひまなき前渡りに 人の心を尽くしたまふも げにことわりと見えたり

尊敬語 謙譲語 丁寧語