源氏の君は 主上の 173 ★★☆

2020-09-15★★☆:文の構造を捉え直す01 桐壺,分岐型,たり(完了),なり(断),

桐壺 原文 かな書き 現代語訳 第10章33

源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさまを 類なしと思ひきこえて さやうならむ人をこそ見め 似る人なくもおはしけるかな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど 心にもつかずおぼえたまひて 幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける

げんじ-の-きみ/は うへ/の/つね/に/めし-まつはせ/ば こころ-やすく/さとずみ/も/え/し/たまは/ず こころ/の/うち/に/は ただ/ふぢつぼ/の/おほむ-ありさま/を たぐひなし/と/おもひ/きこエ/て さやう/なら/む/ひと/を/こそ/み/め にる/ひと/なく/も/おはし/ける/かな おほいどの-の-きみ いと/をかしげ/に/かしづか/れ/たる/ひと/と/は/みゆれ/ど こころ/に/も/つか/ず/おぼエ/たまひ/て をさなき/ほど/の/こころ/ひと-つ/に/かかり/て いと/くるしき/まで/ぞ/おはし/ける

源氏の君は帝がいつも側にお召し置きになるので、心のどかに里家でお住みになることもなく、心中ではただ藤壺のお姿を最上であるとお慕い申し上げて、そうした方とこそ契りを結びたいが、似る人さえもいらっしゃらないものだ、左大臣の娘は、とても大切に育てられた人とは御覧になりながらも情が移りそうにないとお感じになって、幼ない心は藤壺のことのみにかかり切りひどく苦しいまで思い詰めておられた。

解釈の決め手

里住み:左大臣邸か母の実家か

左大臣邸で過ごすこととされているが、左大臣邸で心安くすることはないので、母の実家であろう。この後、修理職・内匠寮に宣旨が下り、比類ない立派な邸宅に生まれ変わる。

桐壺 注釈 第10章33

心安く 01-173

心安らかに。悩みや心配のない状態。成人したために、帝の側にいても、これまでのように夫人の元に出入りできない。この埋められぬ距離が悩ましさの種となる。

見め 01-173

妻にしたいの意味。

大殿の君 01-173

葵の上。

心にもつかず 01-173

「心につく」は愛情が芽生える。

一つにかかり 01-173

幼い心が藤壺のことだけにかかり切りになる。

語りの対象&構造型

対象:光源氏藤壺の宮葵の上

源氏の君は  主上の常に召しまつはせば  心安く里住みもえしたまはず》A
源氏の君は帝がいつも側にお召し置きになるので、心のどかに里家でお住みになることもなく、


心のうちには ただ 藤壺の御ありさま を 類なしと思ひきこえて》B
心中ではただ藤壺のお姿を最上であるとお慕い申し上げて、


さやうならむ人をこそ見め  似る人なくもおはしけるかな》C
そうした方とこそ契りを結びたいが、似る人さえもいらっしゃらないものだ、


大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人 とは見ゆれど》D
左大臣の娘は、とても大切に育てられた人とは御覧になりながらも、


心にもつかずおぼえたまひて・ 幼きほどの心一つにかかりて  いと苦しきまでぞおはしける》E・F
情が移りそうにないとお感じになって、幼ない心は藤壺のことのみにかかり切りひどく苦しいまで思い詰めておられた。

分岐型・中断型:A<B<([C<]D<E<)F:A<B<F、C、D<E<F

 A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
 ※係り受けは主述関係を含む


〈直列型〉<:直進 :倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 :中止法


〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用

情報の階層&係り受け

構文:にかかりて…までぞおはしける/四次

〈源氏の君〉は 〈主上〉の常に召しまつはせ  心安く里住みもえしたまはず 心のうちには ただ藤壺の御ありさま 類なしと思ひきこえて @/さやうならむ人をこそ見め 〈似る人〉なく もおはしけるかな/ 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人 とは見ゆれ  心にもつかずおぼえたまひて  幼きほどの心一つにかかりて いと苦しきまでぞおはしける

主〉述:一朱 二緑 三青 四橙 五紫 六水 [ ]: 補 /: 挿入 :分岐

「心にもつかずおぼえたまひて」が「類なしと思ひきこえて」の言い換え、これによって分岐が終わる。

係り受け&主語述語

「思ひきこえて」→「心一つにかかりて」→「いと苦しきまでぞおはしける」


「さやうならむ人をこそ見め似る人なくもおはしけるかな」:「ただ藤壺の御ありさまを類なし」が「思ひきこえて」の間接法での表現で、これを直説法風に語り手が光源氏の立ち場から表現したもの。(「さやうならむ」は前の文章「御ありさま類いなき藤壺」を受けるのであって、光源氏の言葉ではない。あくまで光源氏の言葉のように語り手が語っているのだ)


「見む」(能動)と「見ゆ」(受動)を対比させようとの意図により言語空間が凝縮され、地の文と心中語が切れ目なくつづいた。これは散文でなく韻文的な技法である。「見め」:「見る」未然形+「む」の已然形/「見ゆれ」:「見ゆ」の已然形


「大殿の君、いとをかしげにかしづかれたる(人)」:間接法表現である「心にもつかずおぼえたまひ」を直説法風に語り手が光源氏の立ち場から表現したもの。これは光源氏の言葉を直接引いたものかもしれない。

附録:助詞・敬語の識別・助動詞

助動詞: なり(断)  けり たり(完了)

源氏 主上常に召しまつはせ 心安く里住みえしたまは 心うち  ただ藤壺御ありさま 類なし思ひきこえ さやうなら こそ 似る人なくおはしける かな 大殿君 いとをかしげにかしづかれたる 見ゆれ 心 つかおぼえたまひ 幼きほど一つかかり いと苦しきまで おはしける

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

敬語:召す たまふ  きこゆ おはす

源氏の君は 主上の常に召しまつはせば 心安く里住みもえしたまはず 心のうちに は ただ藤壺のありさまを 類なしと思ひきこえて さやうなら む人を こそ見め 似る人なくもおはしける かな 大殿の君 いとをかしげにかしづかれたる人と は見ゆれど 心に もつかずおぼえたまひて 幼きほどの一つにかかりて いと苦しきまで ぞおはしける

尊敬語 謙譲語 丁寧語