夕月夜のをかしきほ 051
夕月夜のをかしきほどに出だし立てさせたまひて 原文 読み 意味 桐壺第5章02/源氏物語
夕月夜のをかしきほどに 出だし立てさせたまひて やがて眺めおはします
ゆふづくよ/の/をかしき/ほど/に いだしたて/させ/たまひ/て やがて/ながめ/おはします
夕月が夜空に美しく昇った頃に使者をお立てになり、そのまま月をぼんやりと眺めておいでで。
大構造(に出だし立てさせたまひて…眺めおはします/一次)& 係り受け
〈[帝]〉夕月夜のをかしきほどに 出だし立てさせたまひて やがて眺めおはします
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
/01-050文は内裏の外、/01-051は内裏の内、命婦を使者に立てた同じ内容の描写だが、命婦の視点と帝の視点の二つに分けて描く。ふたつの視点は時間軸が同時並行している点に注意。
物語の深部を支える重要語句へのアプローチ
夕月夜:何月何日?
野分は二百十日、二百二十日の異称がある通り、立春から数えて、二百十日目、二百二十日目頃に吹く台風(秋雨前線による疾風)とされる。年によって違うが、陰暦で二百十日は九月一日頃、二百二十日は九月十日頃とする。陰暦一日は無月だからこの設定にあわない。十日なら夕方に月が出るので、だいたいそのあたりと思ってよい。野分により空気の汚れは吹き飛ばされ、一年でも月が大きくなっているので(八月十五夜からおよそ一月後)、月が殊の外美しかったことが想像される。
眺め:月の魔力
月を眺めることだが、中古文で眺めとは、ぼんやりと物思いにふけることをいうが、この場合は少し特殊。陰の気が増えすぎるためか、月を長く直視することはタブーとされていた。ここでも、桐壺更衣を思いながら月を眺めながているうちに、月の光を浴びすぎ、幻影を見てしまう。
助詞の識別/助動詞の識別:
夕月夜のをかしきほどに 出だし立てさせたまひて やがて眺めおはします
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
敬語の識別:
夕月夜のをかしきほどに 出だし立てさせたまひて やがて眺めおはします
尊敬語 謙譲語 丁寧語
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:帝
《夕月夜のをかしきほどに 出だし立てさせたまひて》A
夕月が夜空に美しく昇った頃に使者をお立てになり、
《やがて眺めおはします》 B
そのまま月をぼんやりと眺めておいでで。
直列型:A<B:A<B
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用