この大臣の御おぼえ 桐壺10章30

2021-03-28

原文 読み 意味

この大臣の御おぼえ いとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の御勢ひは ものにもあらず圧されたまへり

01170/難易度:★☆☆

この/おとど/の/おほむ-おぼエ いと/やむごとなき/に ははみや/うち/の/ひと-つ-きさいばら/に/なむ/おはし/けれ/ば いづかた/に/つけ/て/も/いと/はなやか/なる/に この/きみ/さへ/かく/おはし/そひ/ぬれ/ば とうぐう/の/おほむ-おほぢ/にて つひに/よのなか/を/しり/たまふ/べき/みぎ-の-おとど/の/おほむ-いきほい/は もの/に/も/あら/ず/おさ/れ/たまへ/り

この大臣への帝のご信任はとても篤いうえに、姫の母宮は帝と同母の生まれでいらっしゃったので、両親いずれをとっても大変なご威光なのに、この君までこのようにお越しになって縁づかれたからには、東宮の御祖父でいずれ天下を掌握なさる右大臣のご権勢も、元来不動のはずが圧されることともなった。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • ば…の…は…圧されたまへり 四次元構造

この大臣の〈御おぼえ〉 いとやむごとなきに 〈母宮〉内裏の一つ后腹になむおはしけれ 〈[左大臣夫妻]〉いづ方につけてもいとはなやかなる この〈君〉さへかくおはし添ひぬれ 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の〈御勢ひ〉はものにもあらず圧されたまへり

助詞と係り受け

この大臣の御おぼえ いとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば 春宮の御祖父にて つひに世の中を知りたまふべき右大臣の御勢ひは ものにもあらず圧されたまへり

「この大臣の御おぼえいとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹になむおはしければ」「いづ方につけてもいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれば」は対の関係

大臣御おぼえ いとやむごとなき 母宮内裏一つ后腹なむおはしけれ いづ方つけいとはなやかなる こさへかくおはし添ひぬれ 春宮御祖父 つひに世知りたまふべき右大臣御勢ひ ものあら圧さたまへ

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:けれ ぬれ  べき    

  • けれ:呼び起こし・けり・已然形
  • ぬれ:完了・ぬ・已然形
  • :断定・なり・連用形
  • べき:当然・べし・連体形
  • :断定・なり・連用形
  • :打消・ず・連用形
  • :受身・る・連用形
  • :存続・り・終止形
敬語の区別: おはす おはす 御 たまふ 御 たまふ

この大臣のおぼえ いとやむごとなきに 母宮内裏の一つ后腹に なむおはしけれ ば いづ方につけて もいとはなやかなるに この君さへかくおはし添ひぬれ ば 春宮の祖父に て つひに世の中を知りたまふべき右大臣の勢ひは ものに もあらず圧されたまへ

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

ものにもあらず 01170:揺らぐはずもないものが揺らぐ

ものの数でもなくと訳されてきた。現代語で「ものの数でない」とは、取るに足りぬの意味であるが、左大臣家に光源氏が嫁いだからといって、東宮を擁する右大臣家がものの数でなくなる、なんてことはありえない。ここも「もの」の原義から考えなければならない。「もの」は不動で動かしがたい存在。本来「もの」のように押しも押されもせぬ権勢家であるのに。「にも(あらず)」は「柄にもなく」「口ほどにもなく」などの「にも」。「もの」であるのに「もの」の性質を弱め。

御おぼえ 01170

左大臣に対する帝からの信任。

やむごとなき 01170

最上。

内裏の一つ后腹 01170

葵の上の母方の両親は、父が先の帝、母は今上帝(光源氏の父)と同母。すなわち、葵の上の母は帝の姉妹である。「内裏」は、ここでは今上帝(光源氏の父)。

いづ方につけても 01170

父方も母方も、両親のどちらについて問題にする場合でも、の意味。

かくおはし 01170

このようにいらっしゃって。「おはす」は「来」の尊敬語。

知り 01170

統治すること。

圧されたまへり 01170

政治のバランスが東宮を擁する弘徽殿の女御や父の右大臣側から左大臣側に移ってゆくことを意味する。そこからまた右大臣側の逆襲が始まり、光源氏は須磨へと逃れることになる。政治バランスは源氏物語の大きな構造のひとつである。

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