慰むやとさるべき人 桐壺09章02
原文 読み 意味
慰むやとさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにやと、御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
01128/難易度:★★☆
なぐさむ/や/と/さるべき/ひとびと/まゐら/せ/たまへ/ど なずらひ/に/おぼさ/るる/だに/いと/かたき/よ/かな/と うとましう/のみ/よろづ/に/おぼし-なり/ぬる/に せんだい/の/し-の-みや/の おほむ-かたち/すぐれ/たまへ/る きこエ/たかく/おはします はは-ぎさき/よに/なく/かしづき/きこエ/たまふ/を うへ/に/さぶらふ/ないし-の-すけ/は せんだい/の/おほむ-とき/の/ひと/に/て かの/みや/に/も/したしう/まゐり/なれ/たり/けれ/ば いはけなく/おはしまし/し/とき/より/み/たてまつり いま/も/ほの-み/たてまつり/て うせ/たまひ/に/し/みやすむどころ/の/おほむ-かたち/に/に/たまへ/る/ひと/を さむ-だい/の/みやづかへ/に/つたはり/ぬる/に え/み/たてまつり/つけ/ぬ/を きさい-の-みや/の/ひめみや/こそ/いと/よう/おぼエ/て おひ-いで/させ/たまへ/り/けれ ありがたき/おほむ-かたちびと/に/なむ と/そうし/ける/に まこと/に/や/と み-こころ/とまり/て ねむごろ/に/きこエ/させ/たまひ/けり
慰めになろうかと、夫人にふさわしい方々をお召しになるが、比べてみるお気持ちになる人さえ全く見つからぬ世の中であると、疎ましいとばかり万事をお考えになっておいででしたが、先帝に四の宮は、美貌にすぐれ、世評も高く、母の后がこよなく大切にお育てになお方ですがそれを、帝に仕える典侍は先帝の御代からの女房で、四の宮のもとへも親しく通い馴れていたので、幼い時分よりお見かけし、昨今も物越しながらしかとお見受けして来てところなので、お亡くなりになった御息所のご容貌に似ていらっしゃる方を、三代の宮仕えを過ごしてまいりながらいっこうにお見受けしたこともございませんが、后の宮のお姫さまこそまことに生き写しのお姿にご成長なさいました。類なきお顔立ちのお方でと奏上したところ、本当だろうかと御心に留まり人を立て懇ろに入内をお勧め申し上げた。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- に…やと…とまりて…聞こえさせたまひけり 五次元構造
〈[帝]〉慰むやとさるべき人びと参らせたまへど @なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと@ 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに @先帝の四の宮の 〈御容貌〉すぐれたまへる 〈聞こえ〉高くおはします 〈母后〉世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ〈典侍〉は @先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり@ 今もほの見たてまつりて @亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の〈姫宮〉こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ@@ と奏しけるに まことにやと〈御心〉とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
助詞と係り受け
慰むやとさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにやと、御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
「疎ましうのみよろづに思しなりぬるに…と奏しけるに まことにやと御心とまりて…」「先帝の四の宮…を 主上にさぶらふ典侍は 今もほの見たてまつりて…と奏しける」が大きな構造
「参らせたまへど」→「疎ましうのみよろづに思しなりぬるに」→「典侍…と奏しけるに」→「御心とまりて…聞こえさせたまひけり」
「先帝の四の宮の…たまへる…おはします…きこえたまふ」:同格「の」+連体形+連体形+連体形
「御容貌すぐれたまへる」「聞こえ高くおはします」「母后世になくかしづききこえたまふ」(並列)「主格の名詞(主格の格助詞の省略)+連体格」→「を」
「母后世になくかしづききこえたまふを」→「今もほの見たてまつり」→「奏しける」
「先帝の御時の人にて…参り馴れたりければ」→「今もほの見たてまつりて」
「いはけなくおはしましし時より見たてまつり」「今もほの見たてまつりて」→「奏しける」
「え見たてまつりつけぬを」→「いとようおぼえて」
慰むやとさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるるだにいとかたき世かなと 疎ましうのみよろづに思しなりぬるに 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人にて かの宮にも親しう参り馴れたりければ いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひにし御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬるに え見たてまつりつけぬを 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへりけれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにやと御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:べき せ るる ぬる る に たれ けれ し に し る ぬる ぬ させ り けれ に ける させ けり
- べき:当然・べし・連体形
- せ:使役・す・連用形
- るる:自発・る・連体形
- ぬる:完了・ぬ・連体形
- る:存続・り・連体形
- に:断定・なり・連用形
- たり:存続・たり・連用形
- けれ:呼び起こし・けり・已然形
- し:過去・き・連体形
- に:完了・ぬ・連用形
- し:過去・き・連体形
- る:存続・り・連体形
- ぬる:完了・ぬ・連体形
- ぬ:打消・ず・連体形
- させ:尊敬・さす・連用形
- り:存続・り・連用形
- けれ:呼び起こし・けり・已然形(「こそ」の結び)
- に:断定・なり・連用形
- ける:呼び起こし・けり・連体形
- させ:尊敬・さす・連用形
- けり:呼び起こし・けり・終止形
敬語の区別:参る たまふ 思す 思す 御 たまふ おはします きこゆ たまふ さぶらふ 御 参る おはします たてまつる たてまつる たまふ 御 御 たまふ たてまつる させたまふ 御 奏す 御 聞こゆ させたまふ
慰むや とさるべき人びと参らせたまへど なずらひに思さるる だにいとかたき世かな と 疎ましうのみよろづに思しなりぬる に 先帝の四の宮の 御容貌すぐれたまへる 聞こえ高くおはします 母后世になくかしづききこえたまふを 主上にさぶらふ典侍は 先帝の御時の人に て かの宮に も親しう参り馴れたり けれ ば いはけなくおはしましし時より見たてまつり 今もほの見たてまつりて 亡せたまひに し御息所の御容貌に似たまへる人を 三代の宮仕へに伝はりぬる に え見たてまつりつけぬ を 后の宮の姫宮こそいとようおぼえて 生ひ出でさせたまへり けれ ありがたき御容貌人になむ と奏しけるに まことにや と御心とまりて ねむごろに聞こえさせたまひけり
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
さるべき人びと 01128
帝(自分)の夫人として相応しい人、生まれ・教養・美貌など。
なずらひに思さるる 01128
桐壺更衣と比較するに足る。「思さる」は帝自身の自敬表現。「る」は自発。
先帝 01128
一院と先帝とどちらが前であるか議論が分かれているが、先帝の時から三代の宮仕えとあるので、先帝・一院・桐壺帝の順であろう。
ほの見たてまつり 01128
「ほの」は関心があるが、情報が少なく、もっと知りたい、見たいという興味がわく対象。
おぼえ 01128
藤壺が桐壺更衣に似ている。
生ひ出でさせたまへりけれ 01128
「生ひ出づ/成長する、具体的には帝の夫人たる年齢に達していること)+「させたまふ/最高敬語)+「けり」。
まことにや 01128
「まことに」と「や」の間に、「おぼえて生ひ出でさせたまへりける」が省略されている。
ねむごろに聞こえさせたまひけり 01128
後宮に参内するよう心を込めて働きかけるよう帝は指示なされたこと。