全歌一覧・読み・意味/あいうえお順

2021-05-20

※ ( )内は直後を語句を訳し添えたもの。歌の詠まれた状況等は原文をご参照ください。

ア行 あ・い・う・え・お

あさかやま/あさく/も/ひと/を/おもは/ぬ/に/など/やまのゐ/の/かけ/はなる/らむ

《井戸に映る影が浅いというあさか山の名の通りには 浅くもあなたのことを思わないのに どうしてかけ離れて影も見えないのでしょう》


あさぎり/の/はれま/も/また/ぬ/けしき/に/て/はな/に/こころ/を/とめ/ぬ/と/ぞ/みる

《朝霧が晴れるのも待ち遠しい様子とは 本当に美しい花である主人に心をお留めなのですね》……表の意味
《朝霧が晴れるのも待てずにお帰りとは どこぞの花に心をお留めでいらっしゃるようね》……裏の意味


あさひ/さす/のき/の/たるひ/は/とけ/ながら/などか/つらら/の/むすぼほる/らむ

《真っ赤な朝日がさす軒にさがったつららは解けるのに どうしてあなたの心は池に張った氷のように鎖していらっしゃるのだろう》


あさぼらけ/きり/たつ/そら/の/まよひ/に/も/ゆきすぎ/がたき/いもがかど/かな

《あさぼらけ 霧立つ空に 気持ちも空と迷ううちにも 素通りしがたい恋しい人の門かな》


あしわか/の/うら/に/みるめ/は/かたく/とも/こ/は/たち/ながら/かへる/なみ/かは

《恋歌も詠めないほどどうにも幼くしようがないという葦の若芽の生える和歌の浦に 海松布(みるめ)が生えにくいように男女の仲になるのは難しくとも わたしは波立ちながら引き返すよう波のように 立ったまま何もせず帰って行くものだろうか》(期待外れもいいところだ)


あは/ぬ/よ/を/へだつる/なか/の/ころもで/に/かさね/て/いとど/み/も/し/み/よ/と/や

《逢わずにいる間柄なので 互いの身を重ね合わせることもできず邪魔な衣の袖なのに さらに衣を重ねてお会いしようとなさるのですか》


あふ/こと/の/よ/を/し/へだて/ぬ/なか/なら/ば/ひるま/も/なに/か/まばゆから/まし

《お会いするのが一夜も間をあけられぬほど愛し合う仲であるならば 昼間であろうと蒜のにおいがしようと どうしていたたまれない気になりましょう》


あふ/まで/の/かたみ/ばかり/と/み/し/ほど/に/ひたすら/そで/の/くち/に/ける/かな

《再会を果たすまでの形見くらいに思っているうちに 涙で袖がすっかり朽ちてしまったなあ》


あらき/かぜ/ふせぎ/し/かげ/の/かれ/し/より/こはぎ/が/うへ/ぞ/しづごころ/なき

《強風をふせいでくれた木が枯れたのでそれ以来 小萩の身の上が心配でなりません どうか若宮のことをお願いします》…表の意味
《宮中を揺るがす嵐で娘が亡くなってからというもの 帝は平静さを失ってしまわれた どうか若宮のことをもっと気にかけて下さい》…裏の意味


あらし/ふく/をのへ/の/さくら/ちら/ぬ/ま/を/こころ/とめ/ける/ほど/の/はかなさ

《嵐が吹く地の峰の桜が 散らない間だけ 心をおとめになるという愛情のはかなさよ》(ますます気がかりで)


いくそ/たび/きみ/が/しじま/に/まけ/ぬ/らむ/もの/な/いひ/そ/と/いは/ぬ/たのみ/に

《これまで幾度あなたの沈黙に わたしは引き下がってきたことでしょう なにも言うなとおっしゃらないのを頼みにしておりましたが》(言葉でもはっきりお見捨てください 玉たすきのような中途半端な状態は苦しいものです)


いとどしく/むし/の/ね/しげき/あさぢふ/に/つゆ/おき/そふる/くも/の/うへびと

《そうでなくても虫が鳴きしきる草深いこの侘しい鄙の宿に ますますもって涙の露を置いてゆく雲の上からの使者よ》(愚痴もつい申したくなり)


いにしへ/も/かく/や/は/ひと/の/まどひ/けむわが/まだ/しら/ぬ/しののめ/の/みち

《いにしえもこんなふうに人は心迷いをしたろうか わたしのまだ知らない朝の恋の道行きに》(こういう経験はおありなの)


いはけなき/たづ/の/ひとこゑ/きき/し/より/あしま/に/なづむ/ふね/ぞ/え/なら/ぬ

《とても幼い鶴の一声を聞いてからは 葦の間に行きなづむ舟がこの恋のようにはかがゆかず耐え難い それでも何度でも舟を漕ぎ出して恋しつづけるのです》(同じ人をね)


いは/ぬ/を/も/いふ/に/まさる/と/しり/ながら/おしこめ/たる/は/くるしかり/けり

《言わないでも言うにまさる場合があることは知っておりますが そんな風に無理に押し黙っておいでなのはとても苦しいことです》(何くれと、実を欠く恋愛ではあるけれど)


うき/ふし/を/こころ/ひとつ/に/かぞへ/き/て/こ/や/きみ/が/て/を/わかる/べき/をり

《つらい思いを心ひとつにしまってきました 今度こそ君と手を切りしまいにすべき折りです》


うち-はらふ/そで/も/つゆけき/とこなつ/に/あらし/ふき/そふ/あき/も/き/に/けり

《床の塵を払い人待ちしてさえ訪れなく袖も涙で濡れています 伴寝する喜びを知った常夏の花なのに 本妻からは脅され激しい嵐まで吹き加わって いよいよ秋が到来し あなたが飽きて去って行く季節ですね》


うつせみ/の/は/に/おく/つゆ/の/こがくれ/て/しのび/しのび/に/ぬるる/そで/かな

《空蝉の羽におかれた露のように木陰に隠れ 人目をしのんで 涙に濡れる袖かな》


うつせみ/の/み/を/かへ/て/ける/こ/の/もと/に/なほ/ひとがら/の/なつかしき/かな

《うつせみが羽化したように姿を変えて去って行った木の下で なお残された殻である記憶の中の人柄が慕われることだな》


うつせみ/の/よ/は/うき/もの/と/しり/に/し/を/また/ことのは/に/かかる/いのち/よ

《あなたが衣を脱ぎ捨て逃げた あの空蝉のようにはかないこの関係は つらいものだと知ってはおりましたが なおもその言葉には すがらずにおれないこの命です》(なんと頼りないことか)


うどんげ/の/はな/まち/え/たる/ここち/し/て/みやまざくら/に/め/こそ/うつら/ね

《あなたの御到来に待ちに待った優曇華の花に やっと会えた気持ちがして そんなにおっしゃる深山桜には目をくれることもありません》


うばそく/が/おこなふ/みち/を/しるべ/にてこ/む/よ/も/ふかき/ちぎり/たがふ/な

《優婆塞が勤行する仏道を頼りにして 来世へもわたる深い約束に背きたまうな》


おくやま/の/まつ/の/とぼそ/を/まれ/に/あけ/て/まだ/み/ぬ/はな/の/かほ/を/みる/かな

《ふだん閉じこもっている奥山の松の戸をまれに開けてみると 見たこともない美しい花の顔を拝見するものだな》


おもかげ/は/み/を/も/はなれ/ず/やまざくら/こころ/の/かぎり/とめ/て/こ/しか/ど

《すぐそばにいるように心ばかりかこの身をも離れないのです 山桜のようなあなたの幻影が 心で精一杯受け止めてきたのに その場にいるようにと心の限り言って来たのに》(なのに、夜の間の風も心配だという古歌にある通り、散らないかと心配でならず)


カ行 か・き・く・け・こ

かぎり/とて/わかるる/みち/の/かなしき/に/いか/まほしき/は/いのち/なり/けり

《生不生は運命が決するもの 別れる道に来た今こうもわたしは悲しいのに 死出の旅を目指すのはこのはかない命なのです》(お約束通りいつまでも一緒にいたいと心からそう願うことができましたならと)


かこつ/べき/ゆゑ/を/しら/ね/ば/おぼつかな/いかなる/くさ/の/ゆかり/なる/らむ

《連想が働いてしまう理由を知らないので気になります わたしはどういう草のゆかりなのでしょう》


かず/なら/ぬ/ふせや/に/おふる/な/の/うさ/に/ある/に/も/あら/ず/きゆる/ははきぎ

《数ならず卑しい 受領の家に生えているとの 噂がつらいので この世にあるともなくて 消えてしまう帚木なのです》


かね/つき/て/とぢめ/む/こと/は/さすが/に/て/こたへ/まうき/ぞ/かつ/は/あやなき

《鐘をついてこれまでとしまいにするのはさすがにいたしかねますものの かと言って応じるには抵抗があり 我ながら解しかねる思いです》


からころも/きみ/が/こころ/の/つらけれ/ば/たもと/は/かく/ぞ/そぼち/つつ/のみ

《からころも りっぱなあなたの心がつらいので たもとはこのようにぬれそぼってばかりです》


くみ/そめ/て/くやし/と/きき/し/やまのゐ/の/あさき/ながら/や/かげ/を/みる/べき

《汲んでみて初めて 後悔すると聞きました 山の井戸です その井戸くらい浅いお気持ちのままでは とても影は見えないし 姫君をお与えすべくもありません》


くも/の/うへ/も/なみだ/に/くるる/あき/の/つき/いかで/すむ/らむ/あさぢふ/の/やど

《雲の上といわれる宮中からさえ涙で見えない美しい秋の月 どうして澄んで見えようか 草深い里では涙にかき濡れさぞ住みづらかろう》


くれなゐ/の/ひと/はなごろも/うすく/とも/ひたすら/くたす/な/を/し/たて/ず/は

《一度の逢瀬では 薄情なあなたのように姫君は薄くしか染まっておらず 鮮やかな魅力には乏しいでしょうが こうなった今では姫のお名前に傷がつないことだけを願うばかりです》


こがらし/に/ふき/あはす/める/ふえ/の/ね/を/ひき/とどむ/べき/ことのは/ぞ/なき

《人目も木の葉も枯らしてしまう木枯らしに 合わせてお吹きになっているようなはげしい笛の音を ひいてとめさせる琴も言葉も持ち合わせておりませんわ》


こころあて/に/それ/か/と/ぞ/みる/しらつゆ/の/ひかり/そへ/たる/ゆふがほ/の/はな

《心あてに 無念な花と ごらんなのでしょうね 白露の光に輝く 夕顔の花を》


こと/の/ね/も/つき/も/え/なら/ぬ/やど/ながら/つれなき/ひと/を/ひき/や/とめ/ける

《琴の音もよく月もさしこむ申し分ない宿なのですから これまでつれない夫をひきとめて来たのでしょうね》(どうやら分は悪そうに見えますなあ)


サ行 さ・し・す・せ・そ

さき/の/よ/の/ちぎり/しら/るる/み/の/うさ/にゆくすゑ/かね/て/たのみ/がたさ/よ

《前世の因縁が知られる身のつらさに これから先のことを今から当てにはとてもできない》


さき/まじる/いろ/は/いづれ/と/わか/ね/ども/なほ/とこなつ/に/しく/もの/ぞ/なき

《咲き混じれば大和撫子も唐撫子も美しさこそいずれを甲乙つきかねますが やはりわたしには常夏の花が一番です 子は頭を撫でただけですが あなたは床で撫であった仲なのですから》(大和撫子のことは二の次にして、これからは何はさておき寝床に塵さえつかぬよう頻繁に通うことにしょうなどと親の本心を汲み取る)


さく/はな/に/うつる/てふ/な/は/つつめ/ども/をら/で/すぎ/うき/けさ/の/あさがほ

《咲く花に心移りしたとの浮名はつつしむべきであるが 手折らずにはすまない今朝の美しい朝顔は》(どうしたものか)


ささがに/の/ふるまひ/しるき/ゆふぐれ/に/ひるま/すぐせ/と/いふ/が/あや/なさ

《蜘蛛が巣作りする そのふるまい方で 私がまた来ることはすでにわかっているはずの夕暮れだというのに 蒜(ヒル)のにおいが消えるまで昼間を待ち過ごせと言うとは 理屈にあわぬではないか》(においが消えたらなどと遭いたくない口実をよく言えたものだ)


さしぐみ/に/そで/ぬらし/ける/やまみづ/に/すめ/る/こころ/は/さわぎ/やは/する

《ふとしたことで袖をお濡らしになった山水だが ここに住みなれた澄んだ心はそんなことでは動じません》(耳慣れてしまっておりますもので)


さと/わか/ぬ/かげ/を/ば/みれ/ど/ゆく/つき/の/いるさのやま/を/たれ/か/たづぬる

《どこの里も分け隔てない月の姿ならば見ることはするが 空を渡ってゆく月が入ってゆく先のいるさ山を 尋ねる人があるだろうか》(こんな風につけまわして歩いたら、どうなさいますか)


すぎ/に/し/も/けふ/わかるる/も/ふたみち/に/ゆく/かた/しら/ぬ/あき/の/くれ/かな

《過ぎ去った人も 今日別れてゆく人も 二つの道を通り 行く方知らずになった秋の暮れだなあ》(やはりこのように人知れぬ思いは苦しいものだな)


すずむし/の/こゑ/の/かぎり/を/つくし/て/も/ながき/よ/あかず/ふる/なみだ/かな

《鈴虫が羽を振り 声を限りに鳴くごとく長い秋の夜を泣き通しても 流れつづける涙ですこと》(どうにも車に乗り込めません)


せみ/の/は/も/たち/かへ/て/ける/なつごろも/かへす/を/み/て/も/ね/は/なか/れ/けり

《秋となりさっぱりと衣を替えおえた蝉の羽のように 薄い夏ごろもを今さらお返しになるのを見ても 過去を清算なさるのかと声を立てて泣かれるばかりです》


タ行 た・ち・つ・て・と

たづね/ゆく/まぼろし/もがな/つて/にて/も/たま/の/ありか/を/そこ/と/しる/べく

《亡き人を尋ねゆく幻術士はいないものか直接は無理でも 道士を通しそこにいたのかと魂のありかが知れように》


たち/とまり/きり/の/まがき/の/すぎ/うく/は/くさ/の/とざし/に/さはり/しも/せ/じ

《立ち止まりながら 霧立つまがきが行き過ぎにくいということでしたら 草の戸が閉まっていようと障りになるかしら触りがあるのはそっちでしょう》


つれなき/を/うらみ/も/はて/ぬ/しののめ/に/とり/あへ/ぬ/まで/おどろかす/らむ

《あなたのつれなさにむけてまだまだ恨み言も言いたりないのに もはやしののめ時となって鳥たちまでが取るものも取り合えぬくらいに急き立てているようだ》


て/に/つみ/て/いつしか/も/み/む/むらさき/の/ね/に/かよひ/ける/のべ/の/わかくさ

《手に摘んで はやく妻にしたい紫の根である宮に 縁のある 野辺の若草を》


て/を/をり/て/あひ/み/し/こと/を/かぞふれ/ばこれ/ひとつ/や/はきみ/が/うき/ふし

《指を折り二人で過ごした思い出を数えてみると この一回切りだったろうか あなたのことでつらい目を見たのは》(別れることになってもよもや恨んだりはできまいね)


とは/ぬ/を/も/などか/と/とは/で/ほど/ふる/に/いかばかり/か/は/おもひ/みだるる

《なぜと問われず日が経ちますが、どれほど心乱れる 思いでおりますことか》(待つ夜の苦しみに寝られぬ人にもまして生きるかいなきとは、なるほどよくわかります)


ナ行 な・に・ぬ・ね・の

なく/なく/も/けふ/は/わが/ゆふ/したひも/を/いづれ/の/よ/に/か/とけ/て/みる/べき

《泣きながら 今日はわたしが結ぶ下紐であるが いつの世にしっぽりと紐を解いて寝られようか》


なつかしき/いろ/と/も/なし/に/なに/に/この/すゑつむはな/を/そで/に/ふれ/けむ

《心引かれる色でもないのに どうしてこの末摘花という紅花を この袖で触ったりしたのだろうか》(禁色である色の濃い花だと思っていたのに)


ね/は/み/ね/ど/あはれ/と/ぞ/おもふ/むさしの/の/つゆ/わけ/わぶる/くさ/の/ゆかり/を

《共寝もせずまだその正体である根を見ないが 愛しく思う武蔵野の 露をわけて逢いに行きがたい紫草の そのゆかりであるあなたのことを》


ハ行 は・ひ・ふ・へ・ほ

はつくさ/の/おひ/ゆく/すゑ/も/しら/ぬ/ま/に/いかでか/つゆ/の/きエ/む/と/す/らむ

《初草が生育した行く末も知らないうちに どうして甘露である露が消えようとするのでしょうか》


はつくさ/の/わかば/の/うへ/を/み/つる/より/たびね/の/そで/も/つゆ/ぞ/かはか/ぬ

《初草の若葉のような初々しいお方を見た後は 旅寝しているこの袖も恋しい涙で乾くひまがない》


ははきぎ/の/こころ/を/しら/で/そのはら/の/みち/に/あやなく/まどひ/ぬる/かな

《近づけば消えてしまう帚木のような あなたのお気持ちも知らないで あなたの心に通う園原の 道の途中でわけがわからないまま 途方に暮れてしまったことだ》(申し上げるすべがありません)


はれ/ぬ/よ/の/つき/まつ/さと/を/おもひやれ おなじ/こころ/に/ながめ/せ/ず/と/も

《晴れぬ夜に心も曇り月を待ちながらあなたを待っている里があることを 思いやってくださいまし たとえ同じ気持ちでいらっしゃらないにしても》


ひかり/あり/と/み/し/ゆふがほ/の/うはつゆ/はたそかれ/どき/の/そらめ/なり/けり

《あなたがお見えになり 光が指したかに見えました 夕顔の上露のような娘と二人の暮らしには でもたそがれ時の見間違えであったとは》


ふき/まよふ/みやま/おろし/に/ゆめ/さめ/て/なみだ/もよほす/たき/の/おと/かな

《吹き荒れる深山おろしに煩悩の夢がさめて 涙をさそう滝の音だな》


ふり/に/ける/かしら/の/ゆき/を/みる/ひと/も/おとら/ず/ぬらす/あさ/の/そで/かな

《年を経て傷んだ頭に積もった雪のような白髪を 見る者も哀れもよおし涙で その老人にもおとらず また浮気な恋人を待つ人にもおとらず 湿らせる朝の袖であること》(若い者は着の身着のままで)


ほのか/に/も/のきば/の/をぎ/を/むすば/ず/は/つゆ/の/かこと/を/なに/に/かけ/まし

《十分ではないものの あなたとふたり軒端の荻を 結ぶ仲となっておらねば わずかな恨み言をのべるさえ 何の口実をもなかったでしょう》


ほのめかす/かぜ/に/つけ/て/も/した/をぎ/の/なかば/は/しも/に/むすぼほれ/つつ

《あの夜のことをほのめかしになる お便りをいただくにつけても 荻の下葉が霜にあたったように 私の下半身は お冷え切ったままで》


マ行 ま・み・む・め・も

まくら/ゆふ/こよひ/ばかり/の/つゆけさ/を/みやま/の/こけ/に/くらべ/ざら/なむ

《旅の枕を結ぶ今宵ひと夜のさびしさの涙と 深山にこもる僧侶の苔の衣に降る涙とをお比べにならないで》(こちらは乾きそうもありませんものを)


まこと/に/や/はな/の/あたり/は/たち/うき/と/かすむる/そら/の/けしき/を/も/み/む

《本当かしら 花のあたりは去りがたいとかりそめにおっしゃったけれど 霞みがかかってわかりにくい空のようなあなたの表情をちゃんと見ておきましょう》


みし/ひと/の/けぶり/を/くも/と/ながむれ/ば/ゆふべ/の/そら/も/むつましき/かな

《愛した人を葬った煙があの雲かとおもい 眺めれば、悲しい夕暮れの空とも心通う気がする》


み/し/ゆめ/を/あふ/よ/あり/や/と/なげく/ま/に/め/さへ/あは/で/ぞ/ころ/も/へ/に/ける

《あなたと契った夢が 本当になる夜が来ようかとむなしく願いなげく間に 泣き濡れた目は合わず 夢にも会えず 時は過ぎ行く》(眠られる夜がないので)


み/て/も/また/あふ/よ/まれ/なる/ゆめ/の/うち/に/やがて/まぎるる/わがみ/ともがな

《こうして愛し合ってもまた逢う夜はなかなかおとずれない このお逢いできている夢のなかに このまま我が身を紛れ込ましてしまいたい》


み/の/うさ/を/なげく/に/あか/で/あくる/よ/は/とり/かさね/て/ぞ/ね/も/なか/れ/ける

《この身のつたなを嘆いても嘆いてもことたりないうちに明けてしまった夜は わたしも鳥の鳴き声にかさねて声を立てて泣いたものです》


みやぎの/の/つゆ/ふき/むすぶ/かぜ/の/おと/に/こはぎ/が/もと/を/おもひ/こそ/やれ

《宮城野のように我が子から遠く離れた宮中で吹いては露をむすぶ風の音を聞くと 野にある小萩のことが涙ながらに思われてならない》


みやびと/に/ゆき/て/かたら/む/やまざくら/かぜ/より/さき/に/き/て/も/みる/べく

《大宮人たちに戻って話そう この山桜の花を風に散る前に是非自分でも見に来るようにと》


もろともに/おほうちやま/は/いで/つれ/ど/いる/かた/みせ/ぬ/いさよひ/の/つき

《ふり捨てて行かれました冷たさに対し 逆にお送り申しあげるとは いやはや ふたり一緒に宮中からは出て参ったのに 入って行く先を見せない あなたはそんないざよいの月ですね》(と、相手が恨み言を言っている様子も癪だけれど)


ヤ行 や・ゆ・よ

やまがつ/の/かきほ/ある/とも/をりをり/に/あはれ/は/かけ/よ/なでしこ/の/つゆ

《山がつの垣は手つかず荒れるとも 折りあるごとに愛情をそそいでくださいな あなたが撫でてかわいがってくださらないから 撫子は露にまみれて泣きじゃくっていますよ》


やまのは/の/こころ/も/しら/で/ゆく/つき/はうはのそら/にて/かげ/や/たエ/な/む

《山の端の気持ちも知らずに渡ってゆく月は 何もわからないまま途中できっと姿を消してしまうことだろう》(心細くて)


ゆふぎり/の/はるる/けしき/も/まだ/み/ぬ/に/いぶせさ/そふる/よひ/の/あめ/かな

《あなのたの心の夕霧が晴れる気色もまだ見ないうちに 気持ちまで滅入らせる宵の雨だこと》(雲の切れ間を待つこの時間、いかに待ち遠しいことか)


ゆふつゆ/に/ひも/とく/はな/は/たまぼこ/のたより/に/みエ/し/え/に/こそ/あり/けれ

《夕露という愛情でこうしてあなたは花ひらき わたしが覆いの紐を解くのは たまたま通りかかったついでに お会いしたのが縁となったのですね》(夕顔を輝かせると詠まれた露の光はいかがです)


ゆふまぐれ/ほのか/に/はな/の/いろ/を/み/て/けさ/は/かすみ/の/たち/ぞ/わづらふ

《きのうの夕暮れちらりと美しい花の色を見てしまったので 今朝は何を見ても霞みがかかったようでそこを離れることができかねます》


よがたり/に/ひと/や/つたへ/む/たぐひ/なく/うき/み/を/さめ/ぬ/ゆめ/に/なし/て/も

《後々までの語り草に人々も伝えましょうか たぐいなくつらい身を 覚めることのない夢の中のできごとと致しましても》(お苦しみになるご様子も、至極当然でかたじけないものである)


より/て/こそ/それ/か/と/も/み/め/たそかれ/に/ほのぼの/み/つる/はな/の/ゆふがほ

《側に寄ってこそ こうだとも見届けましょう たそがれ時にほのかにしかのぞき見ない 夕顔の花のように美しい 夕化粧したお顔の正体を》


よる/なみ/の/こころ/も/しら/で/わかのうら/に/たまも/なびか/む/ほど/ぞ/うき/たる

《言い寄る波の心の底も知らないで 言葉巧みな和歌の浦に玉藻がなびくみたいな 軽はずみな女でしょうか》(無茶と言うもの)


ラ行 ら・り・る・れ・ろ


ワ行 わ・ゐ・ゑ・を


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