降りにける頭の雪 末摘花08章19

2021-05-14

原文 読み 意味

 降りにける頭の雪を見る人も劣らず濡らす朝の袖かな
幼き者は形蔽れず とうち誦じたまひても 鼻の色に出でて いと寒しと見えつる御面影 ふと思ひ出でられて ほほ笑まれたまふ

06125/難易度:☆☆☆

 ふり/に/ける/かしら/の/ゆき/を/みる/ひと/も/おとら/ず/ぬらす/あさ/の/そで/かな
わかき/もの/は/かたち/かくれ/ず と/うち-じゆじ/たまひ/て/も はな/の/いろ/に/いで/て いと/さむし/と/みエ/つる/おほむ-おもかげ ふと/おもひ-いで/られ/て ほほ-ゑま/れ/たまふ

《年を経て傷んだ頭に積もった雪のような白髪を 見る者も哀れもよおし涙で その老人にもおとらず また浮気な恋人を待つ人にもおとらず 湿らせる朝の袖であること》
若い者は着の身着のままで」と、詩句を諳んじになられても、鼻の先が赤らんでとても寒そうに見えた姫君の面影がふと思い出されて、つい顔をほころばせになる。

 降りにける頭の雪を見る人も劣らず濡らす朝の袖かな
幼き者は形蔽れず とうち誦じたまひても 鼻の色に出でて いと寒しと見えつる御面影 ふと思ひ出でられて ほほ笑まれたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

降りにける 06125

「ふり」は、雪が降ると年を経ると、髪が古くなるをかける。

見る人も 06125

光が自分のことを言っている。

「劣らず」「幼き者は形蔽れず」 06125

ふたつながらにかける。つまり、恋人が浮気ばかりして全く来てくれず毎日袖を濡らして泣いている人にも劣らず、の意味がこもる。この辺り、橘の木につもる雪、松の木にかかる雪、老人の頭につもる雪という、パターン描写が面白い視覚的効果を作り上げている。なお、この歌は、老人が寒い中で働いている姿が、見ていてかわいそうだとの歌意だが、そこから、白楽天の詩句が呼び起こされる。「幼き者は形蔽(かく)れず、老いたる者は体温かきことなし」がそれであり、老人の冷えた体から、前の句が呼び起こされたのだ。それは、孫または娘が、少女にもかかわらず、力をふりしぼり門をあける様子が、なりふり構わない姿であり、語り手が「いとかたくななり」と描写したものを、「形蔽れず」と光は口にしたのである。この詩の続きは、「悲喘(ひぜん)寒気とともに、鼻中に入りて辛し」となり、ここから、先ほど横目で見た末摘花の鼻の赤らみを思い出して笑うと続いてゆくのである。

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