思ひ乱れておはする 末摘花06章02

2021-05-12

原文 読み 意味

思ひ乱れておはするに 頭中将おはして こよなき御朝寝かな ゆゑあらむかしとこそ 思ひたまへらるれ
と言へば 起き上がりたまひて 心やすき独り寝の床にて ゆるびにけりや 内裏よりか とのたまへば

06073/難易度:☆☆☆

おもひ/みだれ/て/おはする/に とうのちゆうじやう/おはし/て こよなき/おほむ-あさい/かな ゆゑ/あら/む/かし/と/こそ おもひ/たまへ/らるれ と/いへ/ば おきあがり/たまひ/て こころやすき/ひとりね/の/とこ/にて ゆるび/に/けり/や うち/より/か と/のたまへ/ば

思い乱れておられるところへ、頭中将がおいでになり、「格別なる朝寝とはね。わけありじゃないかとつい勘ぐられてなりませんが」とひやかせば、起きあがりになって、「気ままな独り寝の床なもんで、つい気がゆるんでしまったかな。宮中の帰りなの」とお聞きになると、

思ひ乱れておはするに 頭中将おはして こよなき御朝寝かな ゆゑあらむかしとこそ 思ひたまへらるれ
と言へば 起き上がりたまひて 心やすき独り寝の床にて ゆるびにけりや 内裏よりか とのたまへば

大構造と係り受け

古語探訪

思ひ乱れ 06073

二つの矛盾する感情が同時に起こり、どっちにも決めかねる状況を言い表す言葉だが、これは、相手の身分の高さと、できるならこのままこの恋を終わらせたいとの自分の思いとが共起しているのである。

御朝寝 06073

前日夜更かししたために朝遅くまで眠っていること。貴族は普通、夜明け頃起床し、すぐに宮中に出かけ、宿直でない日は、昼くらいに戻るという生活をしている。日が高く登っているのに床にいることはわけありだなとの判断になるわけ。むろん、こういう場合は朝帰りで、前の晩情事があったことが察せられるのだ。わけても、この夏、頭中将は光の後をつけたことがあり、末摘花に光がご執心であることを知っているのである。それゆえ、朝寝の姿を見て、頭中将にはあああの女だなとピンと来たというのが、一般の解釈。しかし、光が朝の登庁を怠った時点で、頭中将には何かあるとすでに察しをつけており、それを確かめに二条院に出向いたと考える方が自然である。朱雀院の行幸時における楽人舞人が決定される大事な一日、父のもとからもすぐに引き返さねばならない忙しい時に、光のもとに立ち寄ったのは、その知らせを告げるためでないとしたら、登庁のない光を怪しんだと考えるのが自然であろう。頭中将の来訪の目的は、最初から光を牽制するためにあったのである。

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