かの紫のゆかり尋ね 末摘花07章01

2021-05-12

原文 読み 意味

かの紫のゆかり 尋ねとりたまひて そのうつくしみに心入りたまひて 六条わたりにだに 離れまさりたまふめれば まして荒れたる宿は あはれに思しおこたらずながら もの憂きぞ わりなかりけると ところせき御もの恥ぢを見あらはさむの御心も ことになうて過ぎゆくを またうちかへし 見まさりするやうもありかし 手さぐりのたどたどしきに あやしう 心得ぬこともあるにや 見てしがな と思ほせど けざやかにとりなさむもまばゆし うちとけたる宵居のほど やをら入りたまひて 格子のはさまより見たまひけり

06096/難易度:☆☆☆

かの/むらさき/の/ゆかり たづね/とり/たまひ/て その/うつくしみ/に/こころいり/たまひ/て ろくでう/わたり/に/だに かれ/まさり/たまふ/めれ/ば まして/あれ/たる/やど/は あはれ/に/おぼし/おこたら/ず/ながら ものうき/ぞ わりなかり/ける/と ところせき/おほむ-ものはぢ/を/み/あらはさ/む/の/みこころ/も ことに/なう/て/すぎ/ゆく/を また/うち-かへし み/まさり/する/やう/も/あり/かし てさぐり/の/たどたどしき/に あやしう こころえ/ぬ/こと/も/ある/に/や み/て/し/がな と/おもほせ/ど けざやか/に/とり/なさ/む/も/まばゆし うちとけ/たる/よひゐ/の/ほど やをら/いり/たまひ/て かうし/の/はさま/より/み/たまひ/けり

あの藤壺のゆかりを尋ねあてお引き取りになり、その方を愛育することに専念なさって、六条の方面へさえ、いっそう心が離れてゆかれるようので、まして荒れたる末摘花の宿は、愛情をお感じになり、お手紙はなさるものの、気が進まないというのは致し方のないことであった。居たたまれないほどひどく恥じらうのその原因を見定めようとのお考えも、特にないまま時が経ってゆくのを、一方では思い直し、実際に見たら身勝りするようなこともあるではないか、手探りのたどたどしい逢瀬のゆえに、不思議と理解の及ばないことになったのか、正体を見てみたいとお考えにはなるが、真正面から当たるのも照れくさい、皆が寝ないでくつろいでいる夜分、そっと邸内にお入りになって、格子のすきからご覧になった。

かの紫のゆかり 尋ねとりたまひて そのうつくしみに心入りたまひて 六条わたりにだに 離れまさりたまふめれば まして荒れたる宿は あはれに思しおこたらずながら もの憂きぞ わりなかりけると ところせき御もの恥ぢを見あらはさむの御心も ことになうて過ぎゆくを またうちかへし 見まさりするやうもありかし 手さぐりのたどたどしきに あやしう 心得ぬこともあるにや 見てしがな と思ほせど けざやかにとりなさむもまばゆし うちとけたる宵居のほど やをら入りたまひて 格子のはさまより見たまひけり

大構造と係り受け

古語探訪

紫のゆかり 06096

「紫」は藤壺を指し、「ゆかり」はその縁者、全体で紫の上のことを言う。「紫のゆかり」は「(その)うつくしみ」にかかる。

六条わたり 06096

六条御息所のこと、それとは距離がひらく。

まして 06096

六条御息所にも増して。「離れまさる」よりもひどい状態は何かを考えれば、「もの憂き」が浮かび上がる。

荒れたる宿 06096

末摘花の住居。

あはれに思し 06096

愛情は感じること。

おこたらず 06096

手紙を絶やさない。この語は通うの意味もあるが、文脈上それではおかしい。なお、諸注は、「思しおこたらず」とするが、そのような連語は無理に作らない方が素直である。

わりなかりける 06096

「ける」とあるので、地の文である。従って、青表紙の「わりなかりけると」と下につづけることはできない。ここに「と」が入ると、光の心内語になってしまうが、「ける」という詠嘆は、話者が主人公の感情を代弁する働きだから、心内語に入るのはおかしい。

ところせき御もの恥ぢ 06096

窮屈な思いをさせるほどのひどい恥じらいよう。

見あらはさむ 06096

正体を知ること。すなわち、他に男がいるのではないか(頭中将ではないかとの疑念が光にはある)との疑惑を解こうということ。

けざやかにとりなさむもまばゆし 06096

灯火ではっきり見るなどの注があるが考えすぎだろう。ここは正面切って末摘花に相対するのを避け、物陰から透き見することにしたのである。「けざやかにとりなす」は、ことがはっきりするように処理すること。別に光りにあてることに限らない。

うちとけたる 06096

女房たちが内輪だけで心を許し合っている状態。

やをら 06096

そっと。

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