たち返りうち笑ひて 末摘花02章16

2021-05-11

原文 読み 意味

たち返り うち笑ひて 異人の言はむやうに 咎なあらはされそ これをあだあだしきふるまひと言はば 女のありさま苦しからむ とのたまへば あまり色めいたりと思して 折々かうのたまふを 恥づかし と思ひて ものも言はず

06020/難易度:☆☆☆

たち-かへり うち-わらひ/て ことびと/の/いは/む/やう/に とが/な/あらはさ/れ/そ これ/を/あだあだしき/ふるまひ/と/いは/ば をむな/の/ありさま/くるしから/む と/のたまへ/ば あまり/いろめい/たり/と/おぼし/て をりをり/かう/のたまふ/を はづかし と/おもひ/て もの/も/いは/ず

君は立ち返り、つと笑って、「自分を棚上げして、別人が言うみたいに、咎めだてないでおくれ。これを浮気な振る舞いだと言うなら、女の暮らし振りは申し訳立つまい」とおっしゃるので、あまりに身持ちが悪そうだとお思いになって、折々こんな風におっしゃられるのを、決まりが悪く思って何も返事をしない。

たち返り うち笑ひて 異人の言はむやうに 咎なあらはされそ これをあだあだしきふるまひと言はば 女のありさま苦しからむ とのたまへば あまり色めいたりと思して 折々かうのたまふを 恥づかし と思ひて ものも言はず

大構造と係り受け

古語探訪

異人の言はむやうに 06020

一種の決り文句、自分のことはさておき、言う資格のある別人が言うみたいに言うとの意味。

女のありさま 06020

「女」という一般称を用いて命婦の暮らし振りをなじる。先に述べたように、命婦は、帝と光の両方に仕え、おそらくふたりに対して性的関係にあると思われる。「上のまめにおはしますともて悩みきこえさせたまふこそをかしう思うたまへらるるをりをりはべれ」との発言がそれを匂わしているようにわたしには思える。あれ(光)はまじめ過ぎて心配だという発言は、女との睦言の中での会話がふさわしいであろうし、すでに光と関係を結んでいる命婦はぺろりと舌を出して面白がったであろうと想像させられる。もっとも、わたしにはそう読むのが自然だと思えるだけであって、論文として光と命婦が男女の関係にあったことを証し立てるのではない。論文が拾える範囲は狭く、文学は広いのだ。文学作品としてそう読む方が面白いではないかと提起しているに過ぎない。取捨は読者に委ねる。それはともかく、この命婦はなかなか明るくていい。朧月夜の内侍に一脈通ずる気がする。

注意する箇所は特にないが、空間としての位置関係がややこしいので前回からの流れを整理する。光は故常陸宮邸の命婦の部屋にいて、姫君の琴を聞いたのであった。命婦は多く聞かせると腕前がばれてしまうと思い、そうそうに戻ろうとするが、光が別の女のもとへゆくつもりらしく、命婦とは別々に帰ろうとしたのであった。その帰りに、光は寝殿の方を通ったのである。「人のけはひ聞くやうもや」と、姫君の様子が気になったからである。

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