いづれも返り事見え 末摘花03章08

2021-05-11

原文 読み 意味

いづれも返り事見えず おぼつかなく心やましきに あまりうたてもあるかな さやうなる住まひする人は もの思ひ知りたるけしき はかなき木草 空のけしきにつけても とりなしなどして 心ばせ推し測らるる折々あらむこそあはれなるべけれ 重しとても いとかうあまり埋もれたらむは 心づきなく 悪びたり と 中将は まいて心焦られしけり

06036/難易度:☆☆☆

いづれ/も/かへりごと/みエ/ず おぼつかなく/こころやましき/に あまり/うたて/も/ある/かな さやう/なる/すまひ/する/ひと/は もの-おもひ/しり/たる/けしき はかなき/き/くさ そら/の/けしき/に/つけ/て/も とりなし/など/し/て こころばせ/おしはから/るる/をりをり/あら/む/こそ/あはれ/なる/べけれ おもし/とて/も いと/かう/あまり/うもれ/たら/む/は こころづきなく わるび/たり/と ちゆうじやう/は まいて/こころいら/れ/し/けり

どちらへも返事がなく、どうなることかと案じられて気がくさくさするので、あまりにひどいじゃないか、ああいう暮らしをしている人は、相手の風情を解する雰囲気や、ちょっとした木草や空の様子に接するにつけても歌のやりとりなどして、相手への思いを自然と推し量られる折りがあるのが、好ましいだろうに、腰が重いといっても、まあこんなにもひっこんでばかりなのは、愛情もわかずわるびれていると、中将は君にもましていらだちをおぼえた。

いづれも返り事見えず おぼつかなく心やましきに あまりうたてもあるかな さやうなる住まひする人は もの思ひ知りたるけしき はかなき木草 空のけしきにつけても とりなしなどして 心ばせ推し測らるる折々あらむこそあはれなるべけれ 重しとても いとかうあまり埋もれたらむは 心づきなく 悪びたり と 中将は まいて心焦られしけり

大構造と係り受け

古語探訪

心やましきに 06036

心が病むこと、心労すること。

さやうなる住まひする人は 06036

頭中将は、前回の段で、とてもかわいい人がああいう所で暮らしていて、見初めた時には、世間を騒がすくらいぞっこんに惚れ込んでしまうだろうという想像をしていた。

もの思ひ知りたるけしきはかなき木草空のけしきにつけても 06036

諸注は、「もの思ひ知りたる気色」を女がしていて、「はかなき木草、空のけしきにつけても」と解釈するが、「女がしていて」にあたる原文はない。原文はただ「もの思ひ知りたる気色」と「はかなき木草、空のけしき」が対になって、「につけても」が受けているだけである。従って、後半が、ちょっとした木や草、空の気色に会うにつけと訳すように、前半も「もの思い知りたる気色」に会うにつけと考えねばならない。つまり、「もの思ひ知りたる」は末摘花ではなく、末摘花に恋文を送る、男性側のこと、要するに、書き手の雅な気持ちが察せられる手紙をもらった時にはという意味である。「とりなし」は、歌を詠んで手紙を送ること。

心ばせ06036

外に向かって心の内が現れていること。心がそちらに馳せていること。

重し 06036

親王の娘という立場を受けて、ものごとに慎重で重々しいこと。

心づきなく 06036

心がつかない、好きになれない。

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