紅のひと花衣うす 末摘花09章12

2021-05-14

原文 読み 意味

 紅のひと花衣うすくともひたすら朽す名をし立てずは
心苦しの世や と いといたう馴れてひとりごつを よきにはあらねど かうやうのかいなでにだにあらましかば と 返す返す口惜し

06142/難易度:☆☆☆

 くれなゐ/の/ひと/はなごろも/うすく/とも/ひたすら/くたす/な/を/し/たて/ず/は
こころぐるし/の/よ/や と いと/いたう/なれ/て/ひとりごつ/を よき/に/は/あら/ね/ど かうやう/の/かいなで/に/だに/あら/ましか/ば/と かへす/がへす/くちをし

《一度の逢瀬では 薄情なあなたのように姫君は薄くしか染まっておらず 鮮やかな魅力には乏しいでしょうが こうなった今では姫のお名前に傷がつないことだけを願うばかりです》
つらい世の中ですことと、何とも馴れ馴れしく独り言を言うのを聞くにつけ、出来のよい歌ではないながら、このくらいのありきたりの歌が詠る姫君であればと、返す返す残念でならない。

 紅のひと花衣うすくともひたすら朽す名をし立てずは
心苦しの世や と いといたう馴れてひとりごつを よきにはあらねど かうやうのかいなでにだにあらましかば と 返す返す口惜し

大構造と係り受け

古語探訪

ひと花衣 060142

染料に一回浸すだけの染め物。

うすく 060142

三日続けて通うのが正式な婚礼のルールなのに、光源氏が一度しか通って来ないことを揶揄すると同時に、姫の魅力の乏しさの言い訳を述べる。

朽す 060142

花が枯れる。ここでは光源氏から姫君が捨てられること

名 060142

評判

世 060142

広義には世の中全般、狭義には男女の仲。ここは主に後者。

を 060142

難物。「口惜し」に掛けるなら格助詞だが、それでは「ごつ」という用言を受けることができない。「ごつ」は四段活用で連体形。従って、接続助詞となるが、意味は順接でも逆接でもうまくつながらない。訳は少し工夫がいる。

よきにはあらねど 060142

よき歌にはあらねど。

かいなで 060142

「掻い撫づ」の連用形。表面をさっと撫でた程度の意から、通り一遍、ありきたりなどの意味と推定されている。

口惜し 060142

口に出すのも惜しまれるほど残念でならないが原義。このあたりの心情は、語り手が光源氏に気持ちに成り代わっている(代弁している)。つまり、ナレーションであると同時に、光の心情を一人称で語っている。

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