いとかたはらいたき 末摘花02章09

2021-05-10

原文 読み 意味

いと かたはらいたきわざかな ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめるに と聞こゆれど なほ あなたにわたりて ただ一声も もよほしきこえよ むなしくて帰らむが ねたかるべきを とのたまへば うちとけたる住み処に据ゑたてまつりて うしろめたうかたじけなしと思へど 寝殿に参りたれば まだ格子もさながら 梅の香をかしきを見出だしてものしたまふ

06013/難易度:☆☆☆

いと かたはらいたき/わざ/かな もののね/すむ/べき/よ/の/さま/に/も/はべら/ざ/める/に と/きこゆれ/ど なほ あなた/に/わたり/て ただ/ひとこゑ/も もよほし/きこエ/よ むなしく/て/かへら/む/が ねたかる/べき/を と/のたまへ/ば うちとけ/たる/すみか/に/すゑ/たてまつり/て うしろめたう/かたじけなし/と/おもへ/ど しんでん/に/まゐり/たれ/ば まだ/かうし/も/さながら むめ/の/か/をかしき/を/みいだし/て/ものし/たまふ

「何とも気が気でならないお越しだこと。楽の音が澄んで聞こえるような夜の様でもございませんでしょうに」と申し上げるが、 「それでもあちらに行って、さわりだけでもお勧め申せ。何の成果もないまま帰るのでは、くやしいではないか」とおっしゃるので、命婦がいつも気兼ねなく使っている部屋にお待ち願って、そんな場所では気がかりで胸が痛むほどかたじけなく思いつつ、寝殿に上がったところ、まだ格子も下ろさぬまま、姫君は梅の香りの典雅な趣きに心を留めていらっしゃる。

いと かたはらいたきわざかな ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめるに と聞こゆれど なほ あなたにわたりて ただ一声も もよほしきこえよ むなしくて帰らむが ねたかるべきを とのたまへば うちとけたる住み処に据ゑたてまつりて うしろめたうかたじけなしと思へど 寝殿に参りたれば まだ格子もさながら 梅の香をかしきを見出だしてものしたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

わざ 06013

行為。この場合、琴を聞きに出向いてきたこと。あるいは、琴が聞けるように取りはからえと命じられたこと。

ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめる 06013

「このごろのおぼろ月夜に忍びてものせむ」とあった通り、今は春で、朧夜の時節。空気は湿り、楽器は美しい音色を奏でないのである。

むなしくて 06013

琴を聞くことができないということと、「むなし」ということにはギャップがある。光の思いとして、単に琴を聞くことだけが狙いなのではなく、それにつづく恋愛が真の狙いであることをにおわせる表現。「むなし」は、何の収穫も得ないままの意味。

うちとけたる住み処 06013

普段気兼ねなく命婦が使用している部屋。

まだ格子もさながら 06013

夜になっても格子をおろさないまま。

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