引き籠められなむは 末摘花09章07

2021-05-13

原文 読み 意味

引き籠められなむは からかりなまし 袖まきほさむ人もなき身にいとうれしき心ざしにこそは とのたまひて ことにもの言はれたまはず さても あさましの口つきや これこそは手づからの御ことの限りなめれ 侍従こそとり直すべかめれ また 筆のしりとる博士ぞなかべき と 言ふかひなく思す

06137/難易度:☆☆☆

ひき-こめ/られ/な/む/は からかり/な/まし そで/まき/ほさ/む/ひと/も/なき/み/に/いと/うれしき/こころざし/に/こそ/は と/のたまひ/て こと/に/もの/いは/れ/たまは/ず さても あさまし/の/くちつき/や これ/こそ/は/てづから/の/おほむ-こと/の/かぎり/な/めれ じじゆう/こそ/とり-なほす/べか/めれ また ふで/の/しり/とる/はかせ/ぞ/なかる/べき と/いふかひなく/おぼす

「姫にしても隠されてはつらかろうな。共寝して涙を乾かしてくれる伴侶もいない身にとっては、とてもうれしいこころざしではあるが」とおっしゃって、そのほかは特に何もお口になさらない。それにしても、あきれた詠みぶりだ。これぞご自身の筆の限りを尽くされたものであろう。侍従こそ直してしかるべきなのに、それにまた、筆の手をとって教える教師がいなくてよいものかと、言葉にもできないひどいものだとお考えになる。

引き籠められなむは からかりなまし 袖まきほさむ人もなき身にいとうれしき心ざしにこそは とのたまひて ことにもの言はれたまはず さても あさましの口つきや これこそは手づからの御ことの限りなめれ 侍従こそとり直すべかめれ また 筆のしりとる博士ぞなかべき と 言ふかひなく思す

大構造と係り受け

古語探訪

引き籠められなむは 06137

「られ」は、「からかりなまし」の主体が末摘花であることから考え、末摘花を主体にした受け身と考えるのが自然である。「尊敬」との注もあるが、それでは引き込める主体である命婦に対する敬語になってしまう。会話中に身分にかかわらず尊敬語が用いられることはあるが、ここはそう考えると下とつながりにくくなる。

からかり 06137

「辛し」の連用形。

なまし 06137

「な」は完了・強意の「ぬ」の未然形。

袖まきほさむ人もなき 06137

「沫雪は今日はな降りそ白たへの袖まきほさむ人もあらなくに(沫雪は、どうか今日は降らないでほしい、一緒に寝て涙を乾かしてくれる人がいないのに、その上濡れては耐えられないから)」(万葉集、よみ人しらず)を引く。末摘花が「かくぞそぼちつつのみ」と詠んだのを、添い寝する相手がなく泣き濡れているのは自分であるとの冗談口。こうした軽口が出るところからして、光は末摘花の悲しみを真剣には取り上げてはいない。

ことに 06137

「異に」で、その他は。

口つき 06137

歌の詠みぶり。

手づからの御こと 06137

歌の書きぶり、侍従は歌の詠みぶりを直す役目。

侍従 06137

女君の御乳母子で、先に光への返歌を、末摘花に代わって行った。

筆のしりとる博士 06137

歌の書きぶりを直す役目。「筆のしりとる」は、握っている筆の端を持って、運筆を指導すること。初学者への指導である。

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