父の大輔の君は他に 末摘花02章07

2021-05-10

原文 読み 意味

父の大輔の君は他にぞ住みける ここには時々ぞ通ひける 命婦は 継母のあたりは住みもつかず 姫君の御あたりをむつびて ここには来るなりけり

06011/難易度:☆☆☆

ちち/の/たいふのきみ/は/ほか/に/ぞ/すみ/ける ここ/に/は/ときどき/ぞ/かよひ/ける みやうぶ/は ままはは/の/あたり/は/すみ/も/つか/ず ひめぎみ/の/おほむ-あたり/を/むつび/て ここ/に/は/くる/なり/けり

その父である兵部大輔の君は、別な場所に住んでいて、亡き親王の邸へは時々通っていた。命婦は、継母の方へは寄りつきもせず、姫君の方へ心馴染み、こちらに来るのであった。

父の大輔の君は他にぞ住みける ここには時々ぞ通ひける 命婦は 継母のあたりは住みもつかず 姫君の御あたりをむつびて ここには来るなりけり

大構造と係り受け

古語探訪

ここには時々ぞ通ひける 06011

常陸親王の家へ、自分の家であるのに父が時々通うこと。「継母」は、父の後妻。前回の説明では、命婦は父と住んでいるようにあったが、あれは、母と一緒に母の再婚相手である筑前守のもとへは行かず、父と一緒に京に残ったという意味であったのだろう。
「いま一くさ」にしろ、命婦の本来の狙いにしろ、これらを理解するには、いかに文脈が大事であるかがご理解いただけたかと思う。逆にこれまでの解釈は、いかに前後を無視して来たかが、よく理解いただけたろう。語釈がいい加減であったり、文法的に正しくなかったり、かかる場所が違ったりなんぞは、学者として恥ずかしいことではあっても、まあ源氏物語を愉しむことにとっては、些細な部分であろうが、こと文脈の無視となると、支離滅裂となり、これは理解することが不可能となるのだから、罪は深い。もっとも、古文だから文意が多少不鮮明でもいいという、暗黙の了解があるのであろうと想像する。しかし、わたしは、不鮮明な文章を読む頭を持ち合わせていないのだ。命婦が姫君を紹介したいと思っていたのだとしたら、なぜ「わづらはし」と思ったのかと自問すべきであった。それをせずに通釈をしてしまうことが恐ろしいのである。自問したがわからなかったのであれば、致し方ない、前後の文意がつながらないことを断るべきである。別の通釈者が、その矛盾を解決してくれるだろうから、問題を闡明にすることも注釈者の務めだと思う。

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