めづらしきにこれも 夕顔13章03

2021-05-13

原文 読み 意味

めづらしきに これもあはれ忘れたまはず 生けるかひなきや 誰が言はましことにか
 空蝉の世は憂きものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ
はかなしや と 御手もうちわななかるるに 乱れ書きたまへる いとどうつくしげなり

04161/難易度:☆☆☆

めづらしき/に これ/も/あはれ/わすれ/たまは/ず いけ/る/かひなき/や たが/いは/まし/こと/に/か
 うつせみ/の/よ/は/うき/もの/と/しり/に/し/を/また/ことのは/に/かかる/いのち/よ
はかなし/や と おほむ-て/も/うち-わななか/るる/に みだれ/かき/たまへ/る いとど/うつくしげ/なり

空蝉の方から手紙を寄こすなどめったにないことだと、こちらへもいとしい気持ちをお忘れにならず、「生きているかいもないとは、誰の言いたいせりふだろうか。
《あなたが衣を脱ぎ捨て逃げた あの空蝉のようにはかないこの関係は つらいものだと知ってはおりましたが なおもその言葉には すがらずにおれないこの命です》
なんと頼りないことか」と、筆をとる手もつい震えがちなのに、気のおもむくままにお書きになる、その様子はとても美しく感じられる。

めづらしきに これもあはれ忘れたまはず 生けるかひなきや 誰が言はましことにか
 空蝉の世は憂きものと知りにしをまた言の葉にかかる命よ
はかなしや と 御手もうちわななかるるに 乱れ書きたまへる いとどうつくしげなり

大構造と係り受け

古語探訪

これも 04161

「これ」は空蝉を受ける。夕顔だけでなく、空蝉に対しても。

生けるかひなきや 04161

「や」は詠嘆。

映蝉の 04161

空蝉のようなはかないこの世という和歌の常套句としての意味に、光から上着だけを残して逃げた一件をこめた。

かかる 04161

もたれかかる。

御手もうちわななかるるに乱れ書きたまへる 04161

やや難解である。ここのポイントは「に」と「乱れ書き」である。「に」には順接と逆接があり、手が震える上に乱れ書きするのは美しい(順接)と、手が震えるが乱れ書きするのは美しい(逆接)とである。どちらであるかを決めるには、「乱れ書き」の意味をとる必要がある。さて、「乱れ書き」だが、乱れ書きなさってでは意味がないのは上の通り。「乱れ書き」は乱雑に書くのではない。これは古典的な筆法を踏まず、心のおもむくままに筆を走らせること。でなければ、美的要素はなくなる。あとは、手が震えることを美的要素と考えれば、順接の「に」、美的要素と考えないなら逆説の「に」となる。普通に考えると、手は震えるものの、心のままにお書きになるその筆跡はとても美しい、と考えるのが自然である。

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