御車入れさせて西の 夕顔06章04
原文 読み 意味
御車入れさせて 西の対に御座などよそふほど 高欄に御車ひきかけて立ちたまへり 右近 艶なる心地して 来し方のことなども 人知れず思ひ出でけり 預りいみじく経営しありく気色に この御ありさま知りはてぬ ほのぼのと物見ゆるほどに 下りたまひぬめり かりそめなれど 清げにしつらひたり
04066/難易度:☆☆☆
みくるま/いれ/させ/て にし-の-たい/に/おまし/など/よそふ/ほど かうらん/に/みくるま/ひき-かけ/て/たち/たまへ/り うこん えん/なる/ここち/し/て きしかた/の/こと/など/も ひと/しれ/ず/おもひ/いで/けり あづかり/いみじく/けいめい/し/ありく/けしき/に この/おほむ-ありさま/しり/はて/ぬ ほのぼの/と/もの/みゆる/ほど/に おり/たまひ/ぬ/めり かりそめ/なれ/ど きよげ/に/しつらひ/たり
お車を入れさせになり、西の対に御座所などを準備する間、高欄にお車をひきかけてお待ちになる。右近は、婀娜めいた気分に浮き立ち、過ぎ去ったことなども、人知れず思い出していた。留守居役が懸命に世話をしてかけ回る様子から、君のご身分をすっかりのみこんだ。おぼろかに物が見えだした頃に、車からお降りになったようだ。かりの御座所あるがすっきりとしつらえられていた。
御車入れさせて 西の対に御座などよそふほど 高欄に御車ひきかけて立ちたまへり 右近 艶なる心地して 来し方のことなども 人知れず思ひ出でけり 預りいみじく経営しありく気色に この御ありさま知りはてぬ ほのぼのと物見ゆるほどに 下りたまひぬめり かりそめなれど 清げにしつらひたり
大構造と係り受け
古語探訪
立ちたまへり 04066
車をとめておくこと。
艶なる心地 04066
男女の出会いの場に居合わせて、右近みずから婀娜めいた気分になること。
来し方のことなど 04066
諸注の説くとおり、頭中将と夕顔のかつての関係もあろうが、自身の過去の恋愛を思い返してもいたろう。夕顔が「もの恐ろしうすごげ」な様子をしているのと対照的である。
御ありさま 04066
光の身分と注されている。しかし、それでは、「右近、艶なる心地して、来し方のことなども、人知れず思ひ出でけり」の一文が浮いてしまう。「艶なる心地」の関連で、「御ありさま」を解釈すべきではないかと思う。「ありさま」は、外にあらわれた全体的な感じ。右近は院全体を見渡したわけではないし、その番人が光に尽くしたとしても身分がわかるものではないように思う。ここでは、番人がにわか作りの御座所を用意していることから、ここで今日は過ごすのであるという光の考えを知ったということではないか。