尽きせず隔てたまへ 夕顔06章10

2021-04-22

原文 読み 意味

尽きせず隔てたまへるつらさに あらはさじと思ひつるものを 今だに名のりしたまへ いとむくつけし とのたまへど 海人の子なれば とて さすがにうちとけぬさま いとあいだれたり

04072/難易度:☆☆☆

つきせ/ず/へだて/たまへ/る/つらさ/に あらはさ/じ/と/おもひ/つる/もの/を いま/だに/なのり/し/たまへ いと/むくつけし と/のたまへ/ど あま/の/こ/なれ/ば とて さすが/に/うちとけ/ぬ/さま いと/あいだれ/たり

「いつまでもお気を許しでないつらさに、見せまいと思っていたものを。せめて今からでも、素性をお明かしください。なんとも気味が悪い」とおっしゃるが、「海人の子ですから」と、それでもなおうちとけない様子は、とても気をもたせる。

尽きせず隔てたまへるつらさに あらはさじと思ひつるものを 今だに名のりしたまへ いとむくつけし とのたまへど 海人の子なれば とて さすがにうちとけぬさま いとあいだれたり

大構造と係り受け

古語探訪

あらはさじ 041072

光が顔の覆いをとったことと、先に歌を贈答したのは自分であると明かしたこと。光は夕顔が詠みかけてきた和歌で人違えしていることに気づいていたのであろう。ただし、それがかつて頭中将の恋人であったのか別人であるか、最初は判断がつかなかったのである。

名のり 04072

名だけを明かすのではない。どういう出であるかなど素性全般を意味すると解さなければ、夕顔の返事は理解できない。

むくつけし 04072

正体のわからないものに対する気味悪さをいう。恋人にむかって言うには強すぎる語である。これは『注釈』が言うように、「いづれか狐なるらんな」と呼応するが、なお、文脈をはみだす感じがする。文脈をはみ出すのは、遠く離れた個所と呼応する証拠であり、これは、夕顔へ向けた言葉であると同時に、後に霊が出現するこの場所に対する気味悪さを述べた語であろう。ここでも、言葉が事柄に先立つ予言構造が使われている。

海人の子なれば 04072

「白波の寄する渚に世をすぐす海人の子なれば宿も定めず」(古今和歌集・藤原直子)、すなわち、海人の子であって住まいも定まらない家の出であるから、素性を明かそうにも明かす素性はないとの答え。先に「名のり」は名前だけでないと注したのは、宿も定まらない身であるから、明かす名前がないでは文脈が齟齬するため。宿は家柄・出自の比ゆ。

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