右近を召し出でての 夕顔12章02

2021-04-25

原文 読み 意味

右近を召し出でて のどやかなる夕暮に 物語などしたまひて なほ いとなむあやしき などてその人と知られじとは 隠いたまへりしぞ まことに海人の子なりとも さばかりに思ふを知らで 隔てたまひしかばなむ つらかりし とのたまへば

04142/難易度:☆☆☆

うこん/を/めし/いで/て のどやか/なる/ゆふぐれ/に ものがたり/など/し/たまひ/て なほ いと/なむ/あやしき などて/その/ひと/と/しら/れ/じ/と/は かくい/たまへ/り/し/ぞ まこと/に/あま/の/こ/なり/とも さばかり/に/おもふ/を/しら/で へだて/たまひ/しか/ば/なむ つらかり/し と/のたまへ/ば

右近をお召し出しになり、のどやかな気分の夕暮れに、夕顔との間にこれまであったことをお話なされたりした後、「それにしてもひどく気になってならぬ。どうして自分は誰それであると知られまいとして、そうまでお隠しになられたのだ。本当に海人の子であっても、これほど愛しているのも知らず、距離をお置きになられたのが、身にしみてつらかった」とおっしゃると、

右近を召し出でて のどやかなる夕暮に 物語などしたまひて なほ いとなむあやしき などてその人と知られじとは 隠いたまへりしぞ まことに海人の子なりとも さばかりに思ふを知らで 隔てたまひしかばなむ つらかりし とのたまへば

大構造と係り受け

古語探訪

のどやかなる 04142

心情語であり、夕暮れから受ける感情がのどやかなのである。夕暮れを描写するのではないが、のどかな夕暮れと訳しても、心情語であるともとれるので、特に問題はない。心情語であるという理解はあってほしい。

物語 04142

物は動かせない対象。ここでは亡くなった夕顔にまつわる話であって、世間話ではない。 だからこそ、源氏の発言が「なほ」で始まるのだ。のどかな夕暮れに、ずっと夕顔のことを話題にしてきたが、それでもまだのみこめないことがある。

なほ 04142

それにしてもの意味。

あやしき 04142

合点がゆかず、興味ひかれる。

などて 04142

理由をあらわす「など」の強調。

その人と 04142

その人とはこういう人である、正体はこうである。

まことに海人の子なりとも 04142

先に光が名前を聞きたがると、「海人の子なれば/04129」と言って答えなかった。漁師の子のようなつまらない者なので、本名を名乗れないという意味である。これを受けて、本当に海人の子であっても名前を教えてくれたらいいじゃないか、光はぐちるのである。

さばかりに思ふ 04142

自分はこれほどまでに熱を上げているのだから。

深く隠し 04142

「深く」は、そのまま訳しては意味が不明確な比ゆである。ここでは」は浅い深いに意味の重点があるのではなく、名を隠すつもりだったかどうかが問題なのだ。従って、この「深く」はずっと隠しつづけるつもりで隠していたのではないということ。結果として名前がわかってもいいと思っていたことをいう。深い意図があって隠していたわけではない。

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