遠く下りなどするを 夕顔13章02

2021-04-25

原文 読み 意味

遠く下りなどするを さすがに心細ければ 思し忘れぬるかと 試みに 承り 悩むを 言に出でては えこそ
 問はぬをもなどかと問はでほどふるにいかばかりかは思ひ乱るる
益田はまことになむ と聞こえたり

04160/難易度:☆☆☆

とほく/くだり/など/する/を さすが/に/こころぼそけれ/ば おぼし/わすれ/ぬる/か/と こころみ/に うけたまはり なやむ/を こと/に/いで/て/は え/こそ
 とは/ぬ/を/も/などか/と/とは/で/ほど/ふる/に/いかばかり/か/は/おもひ/みだるる
ますだ/は/まこと/に/なむ と/きこエ/たり

いよいよ遠く伊予の国にくだろうとの折りであり、さすがに心細くなり、忘れてしまわれたのかと試みに、「ご病気とお聞きし胸を痛めておりましたが、ご容態を問い合わせるなどとても、お見舞いもせぬに
 なぜと問われず日が経ちますが、どれほど心乱れる 思いでおりますことか
待つ夜の苦しみに寝られぬ人にもまして生きるかいなきとは、なるほどよくわかります」と申し上げる。

遠く下りなどするを さすがに心細ければ 思し忘れぬるかと 試みに 承り 悩むを 言に出でては えこそ
 問はぬをもなどかと問はでほどふるにいかばかりかは思ひ乱るる
益田はまことになむ と聞こえたり

大構造と係り受け

古語探訪

承り悩む 04160

ご病気だと聞いて苦しむの意味。この「なやむ」は夕顔が苦しむ。

言に出でてはえこそ 04160

「えこそ」は次の和歌の初句「問はぬ」を誘発する。

問はぬをもなどかと問はでほどふるに 04160

「問はぬ」の主体は空蝉。病状を問わない。「などかと問はで」の主体は光。「いかばかりかは」は「いかばかり」を強めた言い方。

益田 04160

元の歌は「ねぬなはの苦しかるらむ人よりも我ぞ益田の生けるかひなき」(拾遺)による。歌意は、来ない待ち人を待って寝ずにいる苦しみよりも、わたしこそ生きるかいもない身だ。「ねぬなは」はジュンサイの異名。益田池と縁語。根が長いことから、「長き」「繰る」「苦し」などの枕詞になる。「ねぬ」は「寝ぬ」をかける。益田は益田池と「益して」をかける。「生ける」は「池」をかける。さて「益田はまことに」の益田は、諸注にあるように単に、私は生きるかいがないの意味ではなく、来ない恋人を待つ苦しみよりもまして生きるかいがないの意味である。どうして見舞を寄越さぬのかと責めてもくれないということは、相手は恋人でさえない、まったく他人にかわらないということである。来ない恋人を待つのは苦しいが、来る来ない以前に、恋人とも思ってもらえぬ自分は、本当に生きるかいがないと言っているのである。伊予の国へ行くということは、当時の女性にとって、京都にもどってこれないというばかりか、実感としては、もう自分の命もおしまいかという思いではなかったか。せめて、あの世の思い出に、空蝉は大胆に詠みかけたのである。

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