いとことさらめきて 夕顔04章12

2021-04-21

原文 読み 意味

いとことさらめきて 御装束をもやつれたる狩の御衣をたてまつり さまを変へ 顔をもほの見せたまはず 夜深きほどに 人をしづめて出で入りなどしたまへば 昔ありけむものの変化めきて うたて思ひ嘆かるれど 人の御けはひ はた 手さぐりもしるべきわざなりければ 誰ればかりにかはあらむ なほこの好き者のし出でつるわざなめり と 大夫を疑ひながら せめてつれなく知らず顔にて かけて思ひよらぬさまに たゆまずあざれありけば いかなることにかと心得がたく 女方も あやしうやう違ひたるもの思ひをなむしける

04051/難易度:☆☆☆

いと/ことさらめき/て おほむ-さうぞく/を/も/やつれ/たる/かり/の/おほむ-ぞ/を/たてまつり さま/を/かへ かほ/を/も/ほの-みせ/たまは/ず よぶかき/ほど/に ひと/を/しづめ/て/いでいり/など/し/たまへ/ば むかし/あり/けむ/もの/の/へんげ/めき/て うたて/おもひ-なげか/るれ/ど ひと/の/おほむ-けはひ はた てさぐり/も/しる/べき/わざ/なり/けれ/ば たれ/ばかり/に/か/は/あら/む なほ/この/すきもの/の/し/いで/つる/わざ/な/めり/と たいふ/を/うたがひ/ながら せめて/つれなく/しらずがほ/にて かけて/おもひよら/ぬ/さま/に たゆま/ず/あざれ/ありけ/ば いかなる/こと/に/か/と/こころえ/がたく をむながた/も/あやしう/たがひ/たる/もの-おもひ/を/なむ/し/ける

何ともわざとらしいくらい、御装束も地味な狩衣をお召しになり、平生とは違う態度をとり、顔も少しもお見せにならず、夜の遅い時刻に従者を下がらせ独りで出入りなどをなさるので、昔あったという物の変化めいて、女は恐ろしいことだとつい嘆かれることだが、君のご様子はまさに手探りでもはっきりと知れるものであったから、だいたいこのくらいの御身分であろうが、やはりこの好き者の仕組んだことであろうと、大夫の惟光を疑ってみるが、つとめて冷静に知らぬ顔をして、嫌疑など思いもよらぬ様子でせっせと浮かれまわっているので、どうしたことかと理解しがたく、女の方でも、あやしく普通とは違う煩い方をしたのであった。

いとことさらめきて 御装束をもやつれたる狩の御衣をたてまつり さまを変へ 顔をもほの見せたまはず 夜深きほどに 人をしづめて出で入りなどしたまへば 昔ありけむものの変化めきて うたて思ひ嘆かるれど 人の御けはひ はた 手さぐりもしるべきわざなりければ 誰ればかりにかはあらむ なほこの好き者のし出でつるわざなめり と 大夫を疑ひながら せめてつれなく知らず顔にて かけて思ひよらぬさまに たゆまずあざれありけば いかなることにかと心得がたく 女方も あやしうやう違ひたるもの思ひをなむしける

大構造と係り受け

古語探訪

いとことさらめきて 04051

女が「うたて思ひ嘆」く原因となっている。故意な不自然さを女は感じるのだ。

狩の御衣 04051

狩衣。略装である。

さまを変へ 04051

服装の不自然さはすでに述べているので、ここは物腰・動作・態度などをいうものと思う。

人をしづめて 04051

「しづめ」は他動詞。人が寝静まるのを待ってという解釈は成り立たない。人を寝静まらせると注するが、その人とは夕顔のまわりの女房というのか、光の従者をいうのかわからない。女房では光は寝かせられないし、従者を寝かしつけても「うたてし」につながらない。ここは、従者がついてゆこうとするのを制して、独りで出入りするの意味である。貴人であれば当然供回りの者がいるはずなのに、独りで乗りこんでくるのが怪しいのである。

昔ありけむものの変化 04051

山の神(蛇)が姿を隠し女のもとへ通ったという三輪伝説(古事記・日本書紀)などが下敷きであろうとされている。

うたて思ひ嘆かるれ 04051

相手は変化ではないかと恐ろしがっている。

大夫 04051

五位をさす。惟光のこと。

せめてつれなく知らず顔にてかけて思ひよらぬさまにたゆまずあざれありけば 04051

惟光の様子。どこにも悪気がないので、夕顔には騙されているのか理解できないのである。このあたりの性格は前回「もの深く(重き)方はおくれて」とあった。あまり思慮深くないのである。

女方も 04051

「もの思ひをなむしける」にかかる。光が「あやしきまで、今朝のほど昼の隔てもおぼつかなくなど思ひわづらはれたまへ(ば)」と前回あった。光は好きになりすぎて悩み、女は相手が誰とわからず恐ろしくて悩む。かように悩み方は異なるが、二人ともに苦しんでいるのが「女方も」の「も」である。

あやしうやう違ひたるもの思ひ 04051

男を通わせている女が普通には経験しないような悩み方の意味。相手が化け物かもしれないという不安を述べている。このように、夕顔は光を愛するどころか、この時点では恐ろしい、怪しいという思いばかりしている。それでも、弱い性格で、現状を変える力はないのである。

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