ましてさりぬべきつ 夕顔03章09

2021-04-22

原文 読み 意味

まして さりぬべきついでの御言の葉も なつかしき御気色を見たてまつる人の すこし物の心思ひ知るは いかがはおろかに思ひきこえむ 明け暮れうちとけてしもおはせぬを 心もとなきことに思ふべかめり

04039/難易度:☆☆☆

まして さりぬべき/ついで/の/おほむ-ことのは/も なつかしき/みけしき/を/み/たてまつる/ひと/の すこし/もの/の/こころ/おもひ/しる/は いかが/は/おろか/に/おもひ/きこエ/む あけくれ/うちとけ/て/しも/おはせ/ぬ/を こころもとなき/こと/に/おもふ/べか/めり

まして、しかるべき折りにいただく歌でも、親しみやすいご様子を拝見する人がすこしでもわきまえのある場合は、どうしておろかに扱いもうしあげようか、明け暮れ心をゆるしておくつろぎにならないことを、気がかりなことであると心配したであろう。

まして さりぬべきついでの御言の葉も なつかしき御気色を見たてまつる人の すこし物の心思ひ知るは いかがはおろかに思ひきこえむ 明け暮れうちとけてしもおはせぬを 心もとなきことに思ふべかめり

大構造と係り受け

古語探訪

まして 04039

光と無関係な外部の人間であったり、光と主従の関係にあったりせず、何か特別な場合に歌を読みかけられるような、親しく接することのできる立場にある人をさす。

御言の葉も 04039

「おろかに思ひきこえん」にかかる。その間の「なつかしき……思ひ知るは」は挿入句。

結局ここで何が言いたいかというと、中将の君は光の読みかけてきた歌を適当にあしらったように見える、つまりは、光の愛情を袖にしたように見えるが、話者の説明によると、そうではなく、明け暮れ心をお許しにならないのが心配であったから、あのような歌を返したのだとの意味である。つまり、一見光の気持ちをおろそかに扱ったかにみえながら、実は御息所との関係がしっくりしてないことを心配した歌を読んだことがわかる。前回「朝霧の」の歌は表と裏二種類の意味があり、表面的には朝顔に心を留めた歌であるが、付き人として主人の気持ちを読むはずであるとの仮定のもと、裏のテーマとして夜離れがあるに違いないと論じたが、ここでそれが立証されたのである。と、自慢らしく言うが、実のところ、前回注をしていた時点では、この個所を読み切れなかっただけのことである。ここをちゃんと押さえていれば、もう少しすっきりした説明ができたように思う。それにしても、「明け暮れうちとけてしもおはせぬを心もとなきことに思ふ(べかめり)」と歌の意味が明確にされているのに、諸訳はどうなっているんだろうという気になる。もっとも、私もそうであったから強くは言えぬが、ここが中将の歌に対する話者の説明であることに気づかないのでは、端からお話にならないのだろう。注をつける資格はないと言わなければならない。中将の歌の解説でなければ、単に光への賛辞で終わってしまい、それでは物語の流れに異物をはさむだけである。異物をゆるしては物語の構造は破壊され、読解も不可能になる。文脈があって文意がさだまるのだから。

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