辺りさへすごきに板 夕顔10章11

2021-04-23

原文 読み 意味

辺りさへすごきに 板屋のかたはらに堂建てて行へる尼の住まひ いとあはれなり 御燈明の影 ほのかに透きて見ゆ その屋には 女一人泣く声のみして 外の方に 法師ばら二 三人物語しつつ わざとの声立てぬ念仏ぞする 寺々の初夜も みな行ひ果てて いとしめやかなり

04119/難易度:☆☆☆

あたり/さへ/すごき/に いたや/の/かたはら/に/だう/たて/て/おこなへ/る/あま/の/すまひ いと/あはれ/なり みあかし/の/かげ ほのか/に/すき/て/みゆ その/や/に/は をむな/ひとり/なく/こゑ/のみ/し/て と/の/かた/に ほふしばら/に さむ-にん/ものがたり/し/つつ わざと/の/こゑ/たて/ぬ/ねんぶつ/ぞ/する てらでら/の/そや/も みな/おこなひ/はて/て いと/しめやか/なり

周囲までもぞっとするような場所なのに、板葺きでかたわらにお堂を建てて修行をしている尼僧の住まいは、とてもありがたい。灯明の火影がわずかに板葺きのすきから透けてみえる。その家の中からは女がひとり泣く声ばかりして、外の方では法師たちが二三人何か話をしては、ことさらに無言念仏を唱えるのだった。寺々では初更の勤行もみな果てて、ひどく厳かに静まりかえっている。

辺りさへすごきに 板屋のかたはらに堂建てて行へる尼の住まひ いとあはれなり 御燈明の影 ほのかに透きて見ゆ その屋には 女一人泣く声のみして 外の方に 法師ばら二 三人物語しつつ わざとの声立てぬ念仏ぞする 寺々の初夜も みな行ひ果てて いとしめやかなり

大構造と係り受け

古語探訪

すごき 04119

冷たさや恐怖など、身を刺すように実感される感覚。

板屋の 04119

「住まひ」にかかる。並列して、「かたはらに堂建てて行へる尼の」が「住まひ」にかかる。板葺きの家で、すぐ側に堂を建てて修行をしている、尼の住まいの意味。板屋が住まいと別にあるのではない。板屋自体が尼の住まいである。諸訳では板屋と別に尼の住まいがあるかのように感じられる。「尼」は、惟光の父の乳母だった人。

あはれ 04119

『通釈』の慈悲深いがよい。「すごきに」の「に」は逆接ととるのが自然で、「あはれ」はありがたいということ。これをものさびしいと解釈したのでは、「あたりさへすごきに」の「さへ」と「に」が説明できない。周囲だって恐ろしい大変な場所なのに、そこへお堂まで建てて修行している尼の生活は、実にありがたいということ。

女 04119

右近。女という呼び方からして、すでに光源氏の支配下にあると、語り手は認識している。

法師ばら 04119

通夜などに臨時で招かれ報酬をえた念仏法師だと『新全集』は注する。

物語しつつ 04119

報酬が目的なので、あまり熱心でないことをいうのだろう。「つつ」は反復で、話をしたり、ことさらに無言で念仏を唱えたりを繰り返す。

声立てぬ念仏 04119

死者が念仏を聞くと、蘇生しようとしている死者もこわがって蘇生できないために、通夜では声を出さずに念仏を唱えると、『新全集』は注する。

初夜 04119

夜を初夜、中夜、後夜と三区分した最初の時間。季節により夜の六時頃にもなれば十時頃にもなる。

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