何かかう繰り返し聞 若紫11章10

2021-05-13

原文 読み 意味

何か かう繰り返し聞こえ知らする心のほどを つつみたまふらむ その言ふかひなき御心のありさまの あはれにゆかしうおぼえたまふも 契りことになむ 心ながら思ひ知られける なほ 人伝てならで 聞こえ知らせばや
 あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながらかへる波かは
めざましからむ とのたまへば

05185/難易度:☆☆☆

なにか かう/くりかへし/きこエ/しらする/こころ/の/ほど/を つつみ/たまふ/らむ その/いふかひなき/み-こころ/の/ありさま/の あはれ/に/ゆかしう/おぼエ/たまふ/も ちぎり/こと/に/なむ こころ/ながら/おもひ/しら/れ/ける なほ ひとづて/なら/で きこエ/しらせ/ばや
 あしわか/の/うら/に/みるめ/は/かたく/とも/こ/は/たち/ながら/かへる/なみ/かは
めざましから/む と/のたまへ/ば

「どうして、こんなに繰り返し申し上げお伝えしようとする心のほどを、遠慮されるのでしょう。そのようにどうにもしようがないご様子が、いとしく会いたいお方だと思われになるのも、前世からの縁が特別であると、我がことながら思い知ったのです。しようのないお方であろうと、やはり人を介さず申し上げこの気持ちを知らせたいものだ。
《恋歌も詠めないほどどうにも幼くしようがないという葦の若芽の生える和歌の浦に 海松布(みるめ)が生えにくいように男女の仲になるのは難しくとも わたしは波立ちながら引き返すよう波のように 立ったまま何もせず帰って行くものだろうか》
期待外れもいいところだ」とおっしゃると、

何か かう繰り返し聞こえ知らする心のほどを つつみたまふらむ その言ふかひなき御心のありさまの あはれにゆかしうおぼえたまふも 契りことになむ 心ながら思ひ知られける なほ 人伝てならで 聞こえ知らせばや
 あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながらかへる波かは
めざましからむ とのたまへば

大構造と係り受け

古語探訪

つつみたまふらむ 05185

直前の少納言の言葉「いとうれしう思ひたまへられぬべきをりふしにはべりながら」そのようにしないという口を濁した部分を受ける。

その言ふかひなき御心のありさま 05185

やはり直前の少納言の言葉にある紫の説明を受けるが、先に尼君の口にした「いとまだ言ふかひなきほどにて」から来る表現であろう。

おぼえたまふ 05185

「おぼゆ」は、光にとって紫はそんな風に思われるの意味で、受け身になっている。紫が光に思われるのだから、「おぼゆ」の主体は紫であり、「たまふ」も紫に対する敬語である。「受け身動詞+たまふ」という構文がもう一度出てくるので、ここでしっかり押さえたい。何が主語かは英語で考えるとわかりやすいだろう。Murasaki is 過去分詞(この英単語を知らなくったって主語をみつけることはできるだろう)だから、「たまふ」の主体は紫と考えるのである。

心ながら 05185

自分の心ながら。

思ひ知られける 05185

「けり」は詠嘆。

なほ 05185

それでもやはりとの意味だが、それでものそれが何を受けるかを常に意識することが大切である。直接には「(その)言ふかひなき御ありさま」でもということ。間接的には「その言ふかひなき……」の「その」が受ける少納言の説明、また、これまで紫について言われてきたことすべてである。
歌の解釈というのはまあ、実にさまざまだなあといつもいつも思ってしまう。ぼくなんかの解釈は、源氏学者にはよほど顰蹙ものだろうと思うが、これでも素直に解釈しているつもりである。前置きの最後に、両歌ともにエロティックな歌であることを付け加えておこう。

あし 05185

葦だけでなく「言ふかひなし」の意味で悪しをうちに含んでいる。

わかの浦 05185

地名としての「わかの浦」と、歌がまだよめないほど若い、すなわち、恋を知らないほど若いの意味をかける。

みるめ 05185

万葉集などでよく出てくる海草の海松布(みるめ)と「見る」すなわち、性交渉をかける。海松布はもちろん女性器の比喩であって、これが歌に詠まれる時は性交渉の意味であって、会いたいだの、声が聞きたいだのといった教室訳はお笑い種である。でも、ここは海松布が生えず、葦が生えているんじゃないんですかなんて野暮なことは言ってほしくない。まだ若くて海松布が硬いのである。

立ちながら 05185

波が立つを響かすと同時に男性自身が……と、ぼくはそう読むがどうであろうか。「波」はむろん波と、「なみす」や「なし」の「な」で、何もしない意味を含む。単に縁語として波が出てきたのではなく、何もしないでおこうかという意味をこめたいがためだ。

めざましからむ 05185

意想外の出来事に対する腹立ち。こっちはもうその気で来ているのに、ここで返すのかってこと。「立ちながらかへる波かは」である。実にエロティックというか、エロそのものだ。

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