上のおぼつかながり 若紫09章02

2021-05-05

原文 読み 意味

主上の おぼつかながり 嘆ききこえたまふ御気色も いといとほしう見たてまつりながら かかる折だにと 心もあくがれ惑ひて 何処にも何処にも まうでたまはず 内裏にても里にても 昼はつれづれと眺め暮らして 暮るれば 王命婦を責め歩きたまふ

05137/難易度:☆☆☆

主上の おぼつかながり 嘆ききこえたまふ御気色も いといとほしう見たてまつりながら かかる折だにと 心もあくがれ惑ひて 何処にも何処にも まうでたまはず 内裏にても里にても 昼はつれづれと眺め暮らして 暮るれば 王命婦を責め歩きたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

いとほしう 05137

第三者に対する同情ではなく、自分の行為に対する申し訳なさを言う。この場合は、光がこれから行う行為、すなわち、王命婦を手引きに藤壺に会いに行く行為に対して、申し訳なく思いながらということ。

あくがれ 05137

心が肉体から離れて、藤壺のもとに飛んでゆくこと。こういう語彙を単なる大げさな常套句として読みすごすのではなく、平安人の精神構造をよく言い当てた表現として、リアルに受け止めるのが、物語に入り込む秘訣だと思う。蛇足をすれば、現代語の「あこがれ」が使われる場面とは比較にならない、激しい恋の熱情を想像すべきである。
病気のこともあり、これからは先を急ごうと思ったのだが、また長くなってしまった。しかし、原則、今後は重点な個所にのみ注をつけてゆく。重点とは、
一、他の注釈と解釈が異なる場合。
二、既存の注釈間で解釈が著しく異なる場合。(全部を調べ切ることはできないが)
三、古語辞典とは語彙の説明が違う場合。(今回の「いとほし」や「もの心細げ」の「もの」など。
四、引歌や省略などがあり、補足説明がなければ本文が十分理解できない場合。
五、読み間違う恐れのある個所。
逆に、一般の注釈書や古語辞典を引けば出てくる語彙は説明を省きたいと思う。訳文を読めばわかる場合も同様。省ける個所はなるべく省き、五十四帖すませたあとでまた、細部を埋めてゆきたいと思います。

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