御几帳の帷子引き下 若紫15章05

2021-05-10

原文 読み 意味

御几帳の帷子引き下ろし 御座などただひき繕ふばかりにてあれば 東の対に 御宿直物召しに遣はして 大殿籠もりぬ

05243/難易度:☆☆☆

みきちやう/の/かたびら/ひき-おろし おまし/など/ただ/ひき-つくろふ/ばかり/にて/あれ/ば ひむがしのたい/に おほむ-とのゐもの/めし/に/つかはし/て おほとのごもり/ぬ

御几帳の帷子をさっと下ろし、御座などもわずかにととのえるだけになっているので、東の対に御宿直の衣服を取りにやられて、お休みになった。

御几帳の帷子引き下ろし 御座などただひき繕ふばかりにてあれば 東の対に 御宿直物召しに遣はして 大殿籠もりぬ

大構造と係り受け

古語探訪

几帳 05243

細い十字の骨組みの横木に垂れ布(帷子)をかけたもの。屏風より簡易に空間を隔てることができる。

御座 05243

休む場所であるが、床が一段ほかより高くなっている。

ひき繕ふばかりにてあれば 05243

簡単に整えるだけでよい状態になっていること。御帳も屏風もない対であるから、最初からそのような状態になっていたのではなく、惟光がそこまで準備したのである。では、なぜ最後までととのえなかったのか。それは、帷子をおろし、御座をちょっとととのえるという最後の準備は、女房の役であって、男のすることではないからであろう。陰陽五行によるまでもなく、寝るという夜の世界は女性が司るべき世界であろう。女房たちは母屋の中で控え、従者は外で待機するのである。

東の対 05243

光が常住している対。

御宿直物 05243

宿直の時に着る服。寝具と同じだとの注があるが、それは間違いである。これまでの解釈は、紫を肉体的に得ていないだけで、実質的にはすでに結婚していると考えているようであり、そうした解釈に基づき、後朝の場面にしろ、寝所の場面にしろ、押し切っているが、何度も繰り返すように、結婚しているようでしていないという二重性が、光と紫との関係の底辺にある。もっといえば、この特殊な事情を保つことが、ふたりを他の登場人物から異化し、聖別されるのだ。これは内的な十字架であり、貴種流離と同じ構造をもっているのである。もちろん、妻が冷たいことも、愛人のひとりがひどい嫉妬の持ち主であることも、物語の枠組みとしては、光の負った十字架であり、それだけ光は光り輝くのである。話が逸れたが、ここの「御宿直物」は、話者の意識として、これが男女が添い寝する関係ではないことを、表面化しているのである。剣を間に突き立て、従者と女主人が添い寝した中世騎士道物語と同じ構図である。

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