にはかにあさましう 若紫15章03

2021-05-10

原文 読み 意味

にはかに あさましう 胸も静かならず 宮の思しのたまはむこと いかになり果てたまふべき御ありさまにか とてもかくても 頼もしき人びとに後れたまへるがいみじさ と思ふに 涙の止まらぬを さすがにゆゆしければ 念じゐたり

05241/難易度:☆☆☆

にはか/に あさましう むね/も/しづか/なら/ず みや/の/おぼし-のたまは/む/こと いかに/なり/はて/たまふ/べき/おほむ-ありさま/に/か とてもかくても たのもしき/ひとびと/に/おくれ/たまへ/る/が/いみじさ と/おもふ/に なみだ/の/とまら/ぬ/を さすがに/ゆゆしけれ/ば ねんじ/ゐ/たり

ふと、不快なほど胸までどよめいて、父宮が考えご命じになられることといったら、どのような結果をもたらすはめとなるご境遇でしょうか、あちらに行くにしもこちらに来るにしても、頼みの人々に死に後れになったのがむごいことと、思うと涙が止まらないのを、さすがに不吉なので、我慢して控えていた。

にはかに あさましう 胸も静かならず 宮の思しのたまはむこと いかになり果てたまふべき御ありさまにか とてもかくても 頼もしき人びとに後れたまへるがいみじさ と思ふに 涙の止まらぬを さすがにゆゆしければ 念じゐたり

大構造と係り受け

古語探訪

にはかに 05241

通例、中止法と考えるが、おかしい。笑って降りた後で、この状況の何がにわかなのかわからない。「思ふ」にかかる。

静かならず 05241

従って終止形でなく連用形。これを終止形にする理由はない。あるとすれば、「にはかに」の受ける先とすることくらいだが、中止法と考えるなら、ここでなくても言い訳で、諸注が終止形にする理由が理解できない。

宮の思しのたまはむこと 05241

ここから少納言の心内語。「こと」に対する結びは流れている、「いかになりはてたまふべき」ではない。古文ではよくある述語の省略と言えばそうだが、西洋では述語を省くなどできないし、ようやく二十世紀になって、心内を語る際に、意識の流れとしてこうした名詞の連続を作家はするようになったのである。

とてもかくても 05241

父宮の手に渡っても、光の手に渡ってもの意味。

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