先つころまかり下り 若紫01章13

2021-04-26

原文 読み 意味

先つころ まかり下りてはべりしついでに ありさま見たまへに寄りてはべりしかば 京にてこそ所得ぬやうなりけれ そこらはるかに いかめしう占めて造れるさま さは言へど 国の司にてし置きけることなれば 残りの齢ゆたかに経べき心構へも 二なくしたりけり 後の世の勤めも いとよくして なかなか法師まさりしたる人になむはべりける と申せば さて その女は と 問ひたまふ

05013/難易度:☆☆☆

さいつころ まかり/くだり/て/はべり/し/ついで/に ありさま/み/たまへ/に/より/て/はべり/しか/ば きやう/にて/こそ/ところえ/ぬ/やう/なり/けれ そこら/はるか/に いかめしう/しめ/て/つくれ/る/さま さはいへど くに/の/つかさ/にて/しおき/ける/こと/なれ/ば のこり/の/よはひ/ゆたか/に/ふ/べき/こころがまへ/も になく/し/たり/けり のちのよ/の/つとめ/も いと/よく/し/て なかなか/ほふしまさり/し/たる/ひと/に/なむ/はべり/ける と/まうせ/ば さて その/むすめ/は と/とひ/たまふ

先だって、西国へ下向しましたついでに、様子をうかがいに立ち寄りましたところ、都でこそうだつがあがらないようでしたが、はるか先までその威風をなびかす屋敷を構えた様子は、軽んじられながらも、国司としてしておいた準備だから、残りの人生をゆたかに暮らせる心の用意も、人に似ぬほどしっかりしているのだった。後世を願う勤行もとても熱心に行い、法師になってかえって値打ちのあがった人とまあ言えましょう」と申しあげると、「ところで、その娘とは」とお聞きになる。

先つころ まかり下りてはべりしついでに ありさま見たまへに寄りてはべりしかば 京にてこそ所得ぬやうなりけれ そこらはるかに いかめしう占めて造れるさま さは言へど 国の司にてし置きけることなれば 残りの齢ゆたかに経べき心構へも 二なくしたりけり 後の世の勤めも いとよくして なかなか法師まさりしたる人になむはべりける と申せば さて その女は と 問ひたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

所得ぬ 05013

「ところ」は具体的には、社会的地位、すなわち出世しなかったことをいう。比ゆ的には、ぱっとしなかった。

そこらはるかにいかめしう占めて造れるさま 05013

諸注は「そこら遥かに占めて、いかめしう造れるさま」と語順を書き変え訳すが、そうはなっていない以上、この読みは間違いである。明石入道の作った邸宅は、遥か先まで人を威圧するように作られていたの意味。「いかめしう占めて」は、その周辺を厳めしさでいっぱいにしてである。

国の司にてし置きけること 05013

財力をいうとの注があるが、それに限らない。国司として準備しておいたこと、すなわち、人生計画の一環なのである。その準備のひとつが、国司として財力を蓄え大邸宅を海辺に構えたこと。残りは後世の願いともうひとつ。

残りの齢ゆたかに経べき心構へも 05013

「も」があることから、これは財力とは別であり、後世を祈ることでもないことが、直後の表現からわかる。明示されていないが、娘を一流の男にめあわせる計画であろう。それができればもう思い残すことはない。

法師まさり 05013

法師になってよかったの意味。人柄がよくなるなどの意味まで出るのか疑問である。「京にてこそところえぬやうなりければ」との関連からして、ところをえた、真価を発揮したほどの意味であろう。

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