かしこにいとせちに 若紫14章05

2021-05-10

原文 読み 意味

かしこに いとせちに見るべきことのはべるを思ひたまへ出でて 立ちかへり参り来なむ とて 出でたまへば さぶらふ人びとも知らざりけり

05226/難易度:☆☆☆

かしこ/に いと/せち/に/みる/べき/こと/の/はべる/を/おもひ/たまへ/いで/て たち-かへり/まゐり/き/な/む とて いで/たまへ/ば さぶらふ/ひとびと/も/しら/ざり/けり

「あちらにどうあっても見ておくことがありますのを思い出しまして、すぐに戻って参ります」と、出て行かれるので、お付きの者たちも気がつかなかった。

かしこに いとせちに見るべきことのはべるを思ひたまへ出でて 立ちかへり参り来なむ とて 出でたまへば さぶらふ人びとも知らざりけり

大構造と係り受け

古語探訪

かしこ 05226

光の自邸である二条院。

立ちかへり参り来なむ 05226

二条院で用件をすませばすぐに舞い戻るつもりだ、ということ。この約束も果たされなかったようである。

さぶらふ人びとも知らざりけり 05226

一見ストーリーに関係ない箇所こそ注意したい。本筋の部分は注意されるが、本筋から逸れる部分は、読み過ごされる可能性が高い、というより、なくていい気がする。しかし、それをあえて書いたところに、作者としては必然的理由があったはずである。そういうところこそ、読みのがさないようにすべきなのだ。本筋はくりかえし述べられるので、見逃しようがないが、こういう部分は一回切りで多くのことを述べていることが多い。さて、そんな前置きをしながら、この一文の含意がわたしにはよくわからない。「さぶらふ人々」は、夜更けなのだから、光の従者ではなく、左大臣が選んでつけた女房たち。この場合、男女の床入りの世話、および、その後の世話、乱れた床を直すだの、汚れた衣服を替えるだの、寝所の準備をするだの、まあそういったことのために控えている女たちである。「知らざりけり」は、光が出てゆくのを知らなかった。「けり」は詠嘆。この者たちはひたすら、実事があるのを待って控え続けたが、ついに呼びだてされないまま朝となったのである。葵は、実事があることを期待され、女房たちが待ち受ける中、おそらく衣擦れの音でもすれば、女房たちはほら今なさってるところよ、などと噂するのが聞こえたであろう、プライドがずたずたに傷つけられ、孤独の中ひとり取り残されたのである。葵に同情すべき女房たちは、ここでは他者になってしまったのだ。そういうことが、この一文から読み取れるのだ。

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