またの日もいとまめ 若紫10章16

2021-05-13

原文 読み 意味

またの日も いとまめやかにとぶらひきこえたまふ 例の 小さくて
 いはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ
同じ人にや と ことさら幼く書きなしたまへるも いみじうをかしげなれば やがて御手本に と 人びと聞こゆ

05172/難易度:☆☆☆

またのひ/も いと/まめやか/に/とぶら/ひ/きこエ/たまふ れい/の ちひさく/て
 いはけなき/たづ/の/ひとこゑ/きき/し/より/あしま/に/なづむ/ふね/ぞ/え/なら/ぬ
おなじ/ひと/に/や と ことさら/をさなく/かき/なし/たまへ/る/も いみじう/をかしげ/なれ/ば やがて/おほむ-てほん/に/と ひとびと/きこゆ

次の日も、とても誠意をもってお見舞い上がられる。例の姫君宛の手紙を小さく引き結んで、
《とても幼い鶴の一声を聞いてからは 葦の間に行きなづむ舟がこの恋のようにはかがゆかず耐え難い それでも何度でも舟を漕ぎ出して恋しつづけるのです》
同じ人をね」と、わざと幼くお書きになるのも、とてもおもしろく感じられるので、これをそのまま姫君の手本にしてはと、女房たちは申し上げる。

またの日も いとまめやかにとぶらひきこえたまふ 例の 小さくて
 いはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ
同じ人にや と ことさら幼く書きなしたまへるも いみじうをかしげなれば やがて御手本に と 人びと聞こゆ

大構造と係り受け

古語探訪

またの日 05172

翌日。

例の小さくて 05172

「中に小さく引き結びて」とあった、紫宛の恋文。

えならぬ 05172

思い通りにならないこと。それは、葦の間にゆきなづむ舟で象徴された紫への思いに対してである。

同じ人にや 05172

「堀江漕ぐ棚なし小舟(オブネ)漕ぎかへりおなじ人にや恋ひわたりなむ」(古今)を引く。歌意は、「堀江を漕ぐ棚ない小舟が何度も行ったり来たりするように、断られても断られても、私は同じ人を恋つづけるのだろうか」で、この読み手の身になって、光は何度断られても恋し続けると紫に訴えているのである。情熱の深さを訴えるとともに、これまで何度もまわりの大人たちに断られて来たという事実を知らせるためでもある。なお、この歌の中では「にや」は、文中にあるので疑問の用法と考え、自問していると取る。しかし、光は文章の末尾にもって来ているので、文末用法である詠嘆の意味が加わる。このように、引用はもとの文脈をとりこむと同時に、この場の文脈にも相応せねばならないので、意味が広がってゆくのだ。

Posted by 管理者