はるかに霞みわたり 若紫01章10

2021-04-26

原文 読み 意味

はるかに霞みわたりて 四方の梢そこはかとなう煙りわたれるほど 絵にいとよくも似たるかな かかる所に住む人 心に思ひ残すことはあらじかし とのたまへば これは いと浅くはべり 人の国などにはべる海 山のありさまなどを御覧ぜさせてはべらば いかに 御絵いみじうまさらせたまはむ 富士の山 なにがしの嶽など 語りきこゆるもあり また西国のおもしろき浦々 磯の上を言ひ続くるもありて よろづに紛らはしきこゆ

05010/難易度:☆☆☆

はるか/に/かすみ/わたり/て よも/の/こずゑ/そこはかとなう/けぶり/わたれ/る/ほど ゑ/に/いと/よく/も/に/たる/かな かかる/ところ/に/すむ/ひと こころ/に/おもひ/のこす/こと/は/あら/じ/かし と/のたまへ/ば これ/は いと/あさく/はべり ひと/の/くに/など/に/はべる/うみ やま/の/ありさま/など/を/ごらんぜ/させ/て/はべら/ば いかに おほむ-ゑ/いみじう/まさら/せ/たまは/む ふじ/の/やま なにがし/の/たけ など かたり/きこゆる/も/あり また/にしくに/の/おもしろ/き/うらうら いそ/の/うへ/を/いひ/つづくる/も/あり/て よろづ/に まぎらはし/きこゆ

はるか遠くまで霞がひろがり、四方の梢がそこはかとなく煙っている具合は、「よくもまあ絵に似たものだな。こんな所に暮らしている僧侶たちは、心に思い残す悩みはないだろうな」とおっしゃると、「これはまだ序の口です。よその国などにございます海山のありさまなんかをご覧にいれられましたら、どんなに絵が今以上ご上手になられましょう」「富士の山、なんとか岳」などとお話申し上げる者もあり、また、西の国の興味をひく浦々や磯の景色について話つづける者もありして、いろいろなことにお気持ちを紛らわし申し上げる。

はるかに霞みわたりて 四方の梢そこはかとなう煙りわたれるほど 絵にいとよくも似たるかな かかる所に住む人 心に思ひ残すことはあらじかし とのたまへば これは いと浅くはべり 人の国などにはべる海 山のありさまなどを御覧ぜさせてはべらば いかに 御絵いみじうまさらせたまはむ 富士の山 なにがしの嶽など 語りきこゆるもあり また西国のおもしろき浦々 磯の上を言ひ続くるもありて よろづに紛らはしきこゆ

大構造と係り受け

古語探訪

はるかに霞みわたりて 05010

この部分から光の会話とする注もあるが取らない。

よくも 05010

「も」はこれほどまでに。

かかる所に住む人 05010

僧房で生活している出家人を指す。

心に思ひ残すことはあらじ 05010

感興を味わいつくす意味ではない。主語が僧侶であることを考えれば、出家の邪魔になる世俗の悩み。出家の願いは光の底流にいつも流れている。源氏物語の主題が出家にあるとは思わないが、平安人の精神構造として、恋と出家は相反するものではない。恋をしながら出家を願い、出家に思いを馳せながら恋をするのである。

浅く 05010

感興が。

御覧ぜさせて 05010

「させ」は使役。光に見てもらう。

なにがしの嶽 05010

富士山と併称されることから、浅間山であろうとされている。これらは東国の山の話。一方、西国の話は山ではなく、海について。

おもしろき 05010

風情があるのではなく、興味を引くの意味、光が気病みせぬよう紛らせるためにする話のこと。

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