その中に違ひ目あり 若紫09章18

2021-05-07

原文 読み 意味

その中に 違ひ目ありて 慎しませたまふべきことなむはべる と言ふに わづらはしくおぼえて みづからの夢にはあらず 人の御ことを語るなり この夢合ふまで また人にまねぶな とのたまひて 心のうちには いかなることならむ と思しわたるに この女宮の御こと聞きたまひて もしさるやうもや と 思し合はせたまふに いとどしくいみじき言の葉尽くしきこえたまへど 命婦も思ふに いとむくつけう わづらはしさまさりて さらにたばかるべきかたなし はかなき一行の御返りのたまさかなりしも 絶え果てにたり

05153/難易度:☆☆☆

その/なか/に たがひめ/あり/て つつしま/せ/たまふ/べき/こと/なむ/はべる と/いふ/に わづらはしく/おぼエ/て みづから/の/ゆめ/に/は/あら/ず ひと/の/おほむ-こと/を/かたる/なり この/ゆめ/あふ/まで また/ひと/に/まねぶ/な と/のたまひ/て こころ/の/うち/に/は いか/なる/こと/なら/む/ と/おぼし/わたる/に この/をむなみや/の/おほむ-こと/きき/たまひ/て もし/さる/やう/も/や/と おぼし/あはせ/たまふ/に いとどしく/いみじき/ことのは/つくし/きこエ/たまへ/ど みやうぶ/も/おもふ/に いと/むくつけう わづらはしさ/まさり/て さらに/たばかる/べき/かた/なし はかなき/ひとくだり/の/おほむ-かへり/の/たまさか/なり/し/も たエ/はて/に/たり

「その中に、逆順の目が出ていて、謹慎なさるべきことがございます」と言うので、君は面倒だとお感じになって、「自分の夢ではなく、人の夢のできごとを語るのだ。この夢が現実のものとなるまで、二度と人にこの話をするな」とおっしゃって、心の中では、どういう意味であろうとお考えになるうちに、この女宮のご懐妊をお聞きになって、もしや自分の子なのかと思い合わせになるにつけ、いっそう熱烈な言葉を尽くして求愛を申し上げになるけれど、先には仲を取り持った命婦までが考えてみるに、とても不気味で対処しきれない状況であり、まったく取り合うべき問題ではない。申し訳程度に一行だけお返事がたまさかにはあったが、それも今ではまったくなくなってしまっていた。

その中に 違ひ目ありて 慎しませたまふべきことなむはべる と言ふに わづらはしくおぼえて みづからの夢にはあらず 人の御ことを語るなり この夢合ふまで また人にまねぶな とのたまひて 心のうちには いかなることならむ と思しわたるに この女宮の御こと聞きたまひて もしさるやうもや と 思し合はせたまふに いとどしくいみじき言の葉尽くしきこえたまへど 命婦も思ふに いとむくつけう わづらはしさまさりて さらにたばかるべきかたなし はかなき一行の御返りのたまさかなりしも 絶え果てにたり

大構造と係り受け

古語探訪

その中に違ひ目ありて 05153

「その中に」とあるので、全体としてはよい夢という判断であり、その中に「違ひ目」があるというのである。「違ひ目」は、ものごとの秩序や序列が逆順になること。皇太子である兄をさしおくことがほのめかされているが、漠然と逆順であるとの占いが出ているのであろう。

慎しませたまふべきこと 05153

道徳的に慎めということでなく、物忌みや謹慎などして「違ひ目」を避けること。

この女宮の御こと 05153

藤壺の懐妊。

さるやうもや 05153

夢解きの話から推測して、藤壺のお腹の子は、帝の子ではなく自分の子供であると判断したのだろう。

言の葉 05153

ふつう和歌のことを言う。これまで以上に熱烈な求愛の歌。

命婦も 05153

「も」は、妊娠にいたった恋愛の取り持ちがこの命婦であった。その命婦さえも、ということ。

むくつけう 05153

異様な気味の悪さをいう。文脈上しっくりこない感じがするが、命婦の心理状況を理解するのに役立つ語である。帝をだまして罪の子を宿す結果になったことは、単なる道義的な罪の意識ばかりか、前世からの強い因果によるものであり、そうした宿縁の強さに対して不気味さ、正体の知れなさを感じしているのである。

わづらはしさまさりて 05153

煩雑さが今まで以上になるという意味にも、自分の能力を超えるともとれる。ここでは後者として取った。

御返り 05153

藤壺からの返事、返歌。仲立ちとなってきた王命婦が手を引いたから、光の手紙は藤壺に渡らないし、藤壺からも光へ返事は来なくなったのである。

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