宮より明日にはかに 若紫13章14

2021-05-10

原文 読み 意味

宮より 明日にはかに御迎へにとのたまはせたりつれば 心あわたたしくてなむ 年ごろの蓬生を離れなむも さすがに心細く さぶらふ人びとも思ひ乱れて と 言少なに言ひて をさをさあへしらはず もの縫ひいとなむけはひなど しるければ 参りぬ

05222/難易度:☆☆☆

みや/より あす/にはか/に/おほむ-むかへ/に/と/のたまはせ/たり/つれ/ば こころあわたたしく/て/なむ としごろ/の/よもぎふ/を/かれ/な/む/も さすが/に/こころぼそく さぶらふ/ひとびと/も/おもひ/みだれ/て と ことずくな/に/いひ/て をさをさ/あへ/しらは/ず もの/ぬひ/いとなむ/けはひ/など/しるけれ/ば まゐり/ぬ

「父宮から明日急にお迎えにとおっしゃられたので、気ぜわしくて。年来の茅屋を離れてゆくのも、さすがに心細く、仕える者たちも気持ちが乱れて」と、言葉少なに言って、ろくな応対もすることなく、縫い物などに余念がない様子などから、紫を移すことがありありと伝わってくるので、光のもとへ復命しに参内した。

宮より 明日にはかに御迎へにとのたまはせたりつれば 心あわたたしくてなむ 年ごろの蓬生を離れなむも さすがに心細く さぶらふ人びとも思ひ乱れて と 言少なに言ひて をさをさあへしらはず もの縫ひいとなむけはひなど しるければ 参りぬ

大構造と係り受け

古語探訪

宮 05222

父宮。

たりつれ 05222

完了の「たり」と完了の「つ」からなる語、一種の強調である。明日急にお迎えにとおっしゃった、だからその準備をという感覚。英語で言えば結果を示す現在完了である。

蓬生 05222

荒廃した邸宅の謙譲表現。

離れ 05222

離れる意味だが、和歌的な表現で、「枯る」をかけ、「蓬生」の縁語となっている。感情が高まると和歌的表現がついて出るのであろう。

さすがに心細く 05222

普段はここから出たいという気持ちがもとにあり、実際に出るとなるとさすがに心細い思いがするのである。ここは「さすがに心細う」と音便形になっているテキストがあるが、それだと「思ひ乱れて」にかけることになる。しかし、意味的には、さすがに心細くで切る方が自然であろう。大島本は「心細く」であり、この方がいい。

をさをさ 05222

打ち消しの語と呼応して、ろくに……しないの意味になる。

あへしらはず 05222

取り合わないということ。

いとなむ 05222

励むこと。ここは引っ越しの準備に余念がない。

しるけれ 05222

語義は、あることがらの中に、当面の問題で事実(それはまだ表現されていない場合が多い)が、すでに歴然と現れている意味。従って、諸注の、物縫ひいたなむことが「しるけれ」と取るのは明らかな間違いである。それらは目で見えることであって、上の定義で言えば「あることがら」である。当面の問題は、紫が父宮の手に渡ってしまうこと。それがはっきりしたから復命に戻ったのである。「しるければ参りぬ」の、原因と結果の関係をしっかり確認してほしい。諸注の解釈では、縫い物など引っ越しの準備で忙しく相手にしてもらえなくてと読めてしまう。しかし、それが原因であれば、「戻る」となって、「光のもとに参る」とはならない。非常事態だと知ったから光のもとにあわてて出向いたのである。

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