いみじう霧りわたれ 若紫12章10

2021-05-09

原文 読み 意味

いみじう霧りわたれる空もただならぬに 霜はいと白うおきて まことの懸想もをかしかりぬべきに さうざうしう思ひおはす

05201/難易度:☆☆☆

いみじう/きり/わたれ/る/そら/も/ただならぬ/に しも/は/いと/しろう/おき/て まこと/の/けさう/も/をかしかり/ぬ/べき/に さうざうしう/おもひ/おはす

一面濃い霧が広がる空も常ならず、霜までが白く降りて、本当に恋する相手との後朝であっても風情を感じるはずであるのに、君はさびしく思っておられる。

いみじう霧りわたれる空もただならぬに 霜はいと白うおきて まことの懸想もをかしかりぬべきに さうざうしう思ひおはす

大構造と係り受け

古語探訪

いみじう霧りわたれる空 05201

物語として男女の後朝の別れに格好の場面。

ただならぬに 05201

常よりすばらしいこと。「に」は「さうざうしう思ひおはす」にかかり、逆接と添加を兼ねたような用法。

霜はいと白うおきて 05201

さらに後朝の別れを盛り上げる場面を加える。

まことの懸想もをかしかりぬべきに 05201

この「も」は「まことの懸想でも」の意味だが、実際の懸想であったならこんな朝帰りも一興であろうという意味ではない。「まことの懸想」とは、恋しい同志が一夜を明かし、なくなく別れる場合のことである。悲しい上にも悲しく、その悲しみが「いみじう霧りわたれる空」という形で象徴的に表現されているのだ。しかしそれでも、この朝の景色には目を奪うものがある。それが「をかしかりぬべき」である。心せく中で一夜を燃えつくしたから、悲しいなかでも一過性の自然に目が向くのだ。男女の仲として燃え切れなかった光には、このうつくしい景色もさびしさしか残さなかったのである。上の注釈の問題は、まことの懸想ならという点、そうではなく、まことの懸想でもの意味である。心の悲しさと自然の美しさが一直線に結びつくのではない。再び逢えないかも知れないという状況が、ものの見方を変えるのである。

Posted by 管理者