いと清らなる御髪を 149 ★☆☆
原文 読み 意味 桐壺第10章09/源氏物語
いと清らなる御髪を削ぐほど 心苦しげなるを 主上は 御息所の見ましかば と思し出づるに 堪へがたきを 心強く念じかへさせたまふ
いと/きよら/なる/み-ぐし/を/そぐ/ほど こころぐるしげ/なる/を うへ/は みやすむどころ/の/み/ましか/ば と/おぼし-いづる/に たへ/がたき/を こころ-づよく/ねんじ-かへさ/せ/たまふ
とてもきれいに揃った御髪を剃ぐあいだ若宮が不憫でならなくおなりなのを、帝は御息所が見ていたらと 思い出すにつけ耐え難くなられたのを気強くこらえて持ち直された。
物語の深部を支える重要語句へのアプローチ
心苦しげなる:帝と若宮の間のドラマ
若宮が帝の目には気の毒に見えた。「心苦し」は相手の立ち場を思って居たたまれなくなる見る側の感情。どうして髪を削ぐことが気の毒になるのか。それは桐壺との約束である、東宮にしてやることもできず、皇籍からも外して一世源氏にすることになり、桐壺の申し訳なくなったからである。そうした背景を思い浮かべないと、何をまた帝はめそめそしているのかという不理解が生じる。大蔵卿が苦しそうにしているという解釈は論外。
堪へがたきを心強く念じかへさせたまふ:帝のあるべき姿
「かつは人も心弱く見たてまつるらむと思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに/01-059」とあり、帝は立場上、自らの弱さを人に見られないように気を張っていたことがわかる。
附録:耳からの情報処理(語りの対象 & 構造型)
語りの対象:光源氏/大蔵卿/帝/桐壺更衣(光源氏の母)
《いと清らなる御髪を削ぐほど・心苦しげなるを》A・B
とてもきれいに揃った御髪を剃ぐあいだ若宮が不憫でならなくおなりなのを、
《主上は御息所の見ましかば と思し出づるに・堪へがたきを・心強く念じかへさせたまふ》C・D・E
帝は御息所が見ていたらと 思い出すにつけ耐え難くなられたのを気強くこらえて持ち直された。
分岐型・反復型:A<B<(C<)~BD<E:A<B<~BD<E、C<~BD
A<B:AはBに係る Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
〈直列型〉<:直進 #:倒置 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
〈中断型〉φ:独立文 [ ]:挿入 |:中止法
〈反復型〉~AX:Aの置換X A[,B]:Aの同格B 〈分配型〉A<B|*A<C ※直列型以外は複数登録、直列型は単独使用
大構造(を…は…を…念じかへさせたまふ/三次)& 係り受け
〈[大蔵卿]〉いと清らなる御髪を削ぐほど 心苦しげなるを @〈主上〉は @ 〈御息所〉の見ましかば@ と思し出づるに@ 堪へがたきを 心強く念じかへさせたまふ
〈主〉述:一朱二緑三青四橙五紫六水 [ ]: 補 /: 挿入 @・@・@・@:分岐
「堪へがたきを」は「心苦しげなるを」の言い換え、分岐の終了サインになっている。
「思し出づる」の内容は「見るましかば」ではない。御息所が見たら今どう思っただろうかと、かつての御息所との約束等を思い出したのである。
助詞の識別/助動詞:
いと清らなる御髪を削ぐほど 心苦しげなるを 主上は 御息所の見ましかば と思し出づるに 堪へがたきを 心強く念じかへさせたまふ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
敬語の識別:
いと清らなる御髪を削ぐほど 心苦しげなるを 主上は 御息所の見ましか ば と思し出づるに 堪へがたきを 心強く念じかへさせたまふ
尊敬語 謙譲語 丁寧語