いとどしく虫の音 桐壺06章13
原文 読み 意味
いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置き添ふる雲の上人
かごとも聞こえつべくなむ と言はせたまふ
01077/難易度:☆☆☆
いとどしく/むし/の/ね/しげき/あさぢふ/に/つゆ/おき/そふる/くも/の/うへびと
かごと/も/きこエ/つ/べく/なむ と/いは/せ/たまふ
《そうでなくても虫が鳴きしきる草深いこの侘しい鄙の宿に ますますもって涙の露を置いてゆく雲の上からの使者よ》
愚痴もつい申したくなり、と侍女に返歌を読み上げさせる。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- と言はせたまふ 三次元構造
いとどしく〈虫の音〉しげき浅茅生に 露置き添ふる 雲の上人 〈[母君]〉かごとも聞こえつべくなむ と言はせたまふ
助詞と係り受け
いとどしく虫の音しげき浅茅生に 露置き添ふる 雲の上人 かごとも聞こえつべくなむ と言はせたまふ
「浅茅生」:母君の里
「雲の上人」:勅使である命婦
いとどしく虫の音しげき浅茅生に 露置き添ふる 雲の上人 かごとも聞こえつべくなむ と言はせたまふ
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:つ べく せ
- つ:強意・つ・終止形
- べく:意思・べし・連用形
- せ:使役・す・連用形
敬語の区別:聞こゆ たまふ
いとどしく虫の音しげき浅茅生に 露置き添ふる 雲の上人 かごとも聞こえつ べく なむ と言はせたまふ
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
かごとも聞こえつべくなむ 01077:言い過ぎたことの反省
先ほど来、心の闇と称して、つい心中をさらけ出し、帝を非難するような言葉になってしまったが、「主上のしかなむ」以下において、帝の使者である命婦には命婦の立場があることを認識させられ、先の訴えはついかごとが口をついたのだと、言葉の調子をトーンダウンさせたい母君の心情が伝わる表現。
言はせたまふ 01077:語られることのない取り次ぎの存在
母君がお付きの者に歌を託し、それを命婦の取り次ぎに伝えた。王朝文学では、位のある人物が何かをする時には、文章に表れていてもいなくても、介添え役を通して行う。「せ」は使役。「たまふ」は母君に対する敬意。
露置き添ふる 01077
あなた(命婦)があかず流した涙が露となり、野分に濡れたこの草深い家に、露を残してお帰りなのですねという応答になっている。
かごと 01077
愚痴。