息も絶えつつ聞こえ 桐壺03章09

2021-04-18

原文 読み 意味

息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ

01032/難易度:★☆☆

いき/も/たエ/つつ きこエ/まほしげ/なる/こと/は/ありげ/なれ/ど いと/くるしげ/に/たゆげ/なれ/ば かく/ながら/ともかくも/なら/む/を ごらんじ-はて/む/と/おぼしめす/に けふ/はじむ/べき/いのり-ども さるべき/ひとびと/うけたまはれ/る こよひ/より/と きこエ/いそがせ/ば わりなく/おもほし/ながら まかで/させ/たまふ

息も絶え絶えに、申し上げておきたいことがおありの様子ながら、どうにも苦しげで辛そうなので、このままどうなれ結果を見届けようと、帝は決心なさるが、今日始めねばなりませぬご祈祷など、例の立派な験者たちが承っております、今宵にもと側女がせき立て申し上げるので、気持ちの納めようもないご心痛ながら、退出をお許しになったのです。

文構造&係り受け

主語述語と大構造

  • ば…思ほしながらまかでさせたまふ 六次元構造

〈[御息所]〉〈息〉も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれ いと苦しげにたゆげなれ 〈[帝]〉かくながら@@ともかくもならむ@ 御覧じはてむ@と思し召す 今日始むべき祈りども さるべき〈人びと〉うけたまはれる 今宵より@と〈[近習]〉聞こえ急がせ 〈[帝]〉わりなく思ほしながらまかでさせたまふ

助詞と係り受け

息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむを 御覧じはてむと思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵よりと 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ

  • 息も絶えつつ聞こえまほしげなることはありげなり+いと苦しげにたゆげなり+→かくながらともかくもならむを御覧じはてむと思し召す/「かくながら」は地の文、「ともかくもならむ」は帝の心内語。これを地の文である格助詞「」を介して「御覧じはてむ」につづけ、さらに「」を介して「思し召す」につづける。「御覧じはてむ」は「思し召す」の内容だから本来は心内語である。その証拠に「む」は一人称の用法である「意思」を表す。しかし、「御覧ず」には敬語が使用されている。つまり、第三者である語り手の立場で帝の行為に敬語を用いながら、当事者である帝の立場に入り込んで心内語を語るというものである。つまり、直接話法と間接話法の境界があいまいになった話法なので、中間話法と名付けられている(描出話法とも言う)。
  • 思し召す→今日始むべき祈りどもさるべき人びとうけたまはれる今宵よりと聞こえ急がす+→わりなく思ほしながらまかでさせたまふ

「今日始むべき祈りども」「さるべき人びとうけたまはれる」:「うけたまはれる」の「る」は連体形で準体言。前の「祈りども」を同格になって後置修飾している。


「今宵より」:「始むべき」に係る倒置法

絶えつつ 聞こえまほしげなることありげなれ いと苦しげにたゆげなれ かくながらともかくもなら 御覧じはて思し召す 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれ 今宵より 聞こえ急がせ わりなく思ほしながら まかでさせたまふ

助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞

助動詞の識別:む む べき べき る させ

  • :未来・む・連体形
  • :意思・む・終止形
  • べき:当然・べし・連体形
  • べき:当然・べし・連体形
  • :存続・り・連体形/準体用法で後には「祈りども」が入るが、それを省略することで、前置されている「祈りども」を、後から同格になって説明している
  • させ:使役・さす・連用形/「させたまふ」:使役+尊敬
敬語の区別:聞こゆ 御覧ず 思し召す 聞こゆ 思ほす まかづ たまふ

息も絶えつつ 聞こえまほしげなることはありげなれど いと苦しげにたゆげなれば かくながらともかくもならむ を 御覧じはてむ と思し召すに 今日始むべき祈りども さるべき人びとうけたまはれる 今宵より と 聞こえ急がせば わりなく思ほしながら まかでさせたまふ

尊敬語 謙譲語 丁寧語

古語探訪

聞こえまほしげなること 01032:女か母か母か女か

二つの解釈が可能である。 「息の絶えつつ」の前で文を切る場合(女から母に戻る解釈):光の君の後見をくれぐれもお願いすること。 「息の絶えつつ」の前で切らない場合:(女のままの意識):お約束を守れず申し訳ございませんという帝への別れの挨拶。 しかし、「いとかく思ひたまへましかば、と」を意味的に下にかけることには無理があるので、前の解釈の方が落ち着くように思う。

かくながら 01032

この状態のまま。

ともかくもならむ 01032

死を忌避した婉曲表現。

御覧じはてむ 01032

最後の最後まで見届けよう。

さるべき 01032

そうあるべき、それに相応しい、即ち、適任者・立派なの意味。

わりなく 01032

道理にあわないが原義。意に反するが。

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