その年の夏御息所は 桐壺03章01
原文 読み 意味
その年の夏 御息所はかなき心地にわづらひて まかでなむとしたまふを 暇さらに許させたまはず
01024/難易度:★☆☆
その/とし/の/なつ みやすむどころ/はかなき/ここち/に/わづらひ/たまひ/て まかで/な/む/と/し/たまふ/を いとま/さらに/ゆるさ/せ/たまは/ず
その年の夏、御息所は死を予感するほどに病んで里に下がろうとなさるが、帝はいっこうに暇を与えようとなさらない。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- を…許させたまはず 二次元構造
その年の夏 〈御息所〉はかなき心地にわづらひて @まかでなむ@としたまふを 〈[帝]〉暇さらに許させたまはず
助詞と係り受け
その年の夏 御息所はかなき心地にわづらひて まかでなむとしたまふを 暇さらに許させたまはず
- その年の夏→(御息所はかなき心地にわづらひて→まかでなむ(心内語)としたまふ)+を→暇さらに許させたまはず
- 暇さらに許させたまはず/連用法→(…とのみのたまはす/01025)
その年の夏 御息所はかなき心地にわづらひて まかでなむとしたまふを 暇さらに許させたまはず
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:な む せ ず
- な:強意・ぬ・未然形
- む:意思・む・終止形
- せ:尊敬・す・連用形/「せたまふ」:最高敬語
- ず:打消・ず・連用形→「…とのみのたまはするに/01025」
敬語の区別:御 たまふ せたまふ
その年の夏 御息所はかなき心地にわづらひて まかでなむ としたまふを 暇さらに許させたまはず
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
はかなき心地にわづらひ 01024:横様なること
ちょっとした病気を得てと解釈されるが、ちょっとした病気で宮廷を後にするとは考えにくいし、間もなく亡くなるのも理に合わない。心地の意味として確かに辞書には病気とあるが、病気の時の心持と考える方が適切である。それまでの長患いでは感じなかった死の不安を、はっきりと感じたから里帰りを決断したのである。宮中で死を迎えることは、忌避されていたからである。「はかなき」は「はかなくなる/死ぬ)の婉曲表現。
御息所 01024
皇子や皇女を生んだ女性に対する敬意の語。桐壺更衣に対する語り手の呼称が変わった。
まかでなむ 01024
宮中を去る。「な」はきっぱりとの意を添える。すっかり局を開けて、これっきり出てゆくともとれるし、これまでも内々に里帰りをしようとしたが帝の引き留めにあって断念してきたのを、今度こそきっぱりと去る決断をしたとも取れる。おそらく「さらに」と呼応関係を見れば、後者である。
さらに…ず 01024
全否定で、全く取り合わない、と解釈するのが通例である。しかし、言葉は自在に使われるのであって、いつもルール通りにはいかない。原義に立って考えたい。肯定文の「さらに」は従来の上にさらに加えての意味だから、それを否定したとすれば、従来同様、この度も許さないとなる。従来同様何も付け加えない、すなわち、これまでも許さず、今回も許さないの意味。呼応関係のある陳述の副詞と解釈するか否かは文脈で考えるしかない。