その年の夏御息所は 桐壺03章01
〈テキスト〉を紡ぐ〈語り〉の技法
修飾関係その一 01024
「その年の夏」は「わづらひて:A」「まかでなむとしたまふ:B」「許させたまはず:C」のどこに掛けるのがよいだろうか。第一に浮かぶのは、この文の情報の焦点がどこにあるかを確認し、そこに係るのではないかと予想する方法である。すなわち、御息所の病気か、宮中を出ようとしたことか、帝が許さなかったことかのいづれの意味が重要かを考えるのである。すると、息所の病気がこの文の新情報の核であり、ここが重要ポイントのように思える。しかし、文の構造としては、「わづらふ」の情報は接続助詞「て」を通して、「まかでなむとしたまふ」に入り込んでいる。御息所に関する情報はここまでで、接続助詞「を」を通して、次に主節が始まってゆく。つまり、B要素がなければ、AとCの要素はつながりを持てないのである。これを軸語という。
一般に「軸語>キーワード」というルールが成り立つ。
これは「文構造は意味に優先する」ということでもある。残るは、主節であるCに掛けるのがよいか、従属節の締めであるBni掛けるのが良いかの検討になる。「その年の夏」は従属節の冒頭にあり、主節に掛けるのは意味的関連がよほど強くないと難しい。そこで意味を考える。「その年の夏、帝は暇を出すことをお許しにならなかった」なのか、「その年の夏、病気を理由に里帰りをしようとしたが、帝は暇を出すことをお許しにならなかった」なのか。後者と考える方が自然であろう。よって、「その年の夏」は従属節の締め「まかでなむとしたまふ」に掛けるのがよいと判明する。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:御息所(桐壺更衣)/帝
直列型:A→B→C→D:A→B→C→D
《その年の夏・御息所はかなき心地にわづらひて・まかでなむとしたまふを》 A・B・C
その年の夏、御息所は死を予感するほどに病んで里に下がろうとなさるが、
《暇さらに許させたまはず》D
帝はいっこうに暇を与えようとなさらない。
- 〈直列型〉→:修飾 #:倒置
- 〈分岐型〉( ):迂回 +:並列
- 〈中断型〉//:挿入 |:文終止・中止法
- 〈反復型〉~AX:Aの言換えX ,AB:Aの同格B
- 〈分配型〉A→B*A→C
A→B:AはBに係る
Bの情報量はAとBの合算〈情報伝達の不可逆性〉
※係り受けは主述関係を含む
※直列型は、全型共通のため単独使用に限った