主上も限りなき御思 桐壺09章12
原文 読み 意味
主上も限りなき御思ひどちにて な疎みたまひそ あやしくよそへきこえつべき心地なむする なめしと思さでらうたくしたまへ つらつきまみなどはいとよう似たりしゆゑ かよひて見えたまふも似げなからずなむ など聞こえつけたまへれば 幼心地にも はかなき花紅葉につけても 心ざしを見えたてまつる
01138/難易度:☆☆☆
うへ/も/かぎりなき/おほむ-おもひどち/にて な/うとみ/たまひ/そ あやしく/よそへ/きこエ/つ/べき/ここち/なむ/する なめし/と/おぼさ/で/らうたく/し/たまへ つらつき/まみ/など/は/いと/よう/に/たり/し/ゆゑ かよひ/て/みエ/たまふ/も/にげなから/ず/なむ など/きこエつけ/たまへ/れ/ば をさなごこち/に/も はかなき/はな/もみぢ/に/つけ/て/も こころざし/を/みエ/たてまつる
帝にしても限りなく愛しい同士の二人なので、疎んではなりませんよ。あの子は不思議と母になぞらえたい気持ちでいるのです。無礼だとお思いにならずかわいがってあげなさい。顔立ちまなざしなど母はとてもよく似ていたので、あなたが母に見えるのも無理からぬことでなど、藤壺の宮にお頼み申し上げておられたので、幼な心にも桜や紅葉などちょっとした機会にこと寄せお慕いしているお気持ちをお示し申しあげるのでした。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- ば…にも…につけても…を見えたてまつる 二次元構造
〈主上〉も限りなき御思ひどちにて @な疎みたまひそ あやしくよそへきこえつべき心地なむする なめしと思さでらうたくしたまへ 〈つらつきまみなど〉はいとよう似たりしゆゑ かよひて見えたまふ〈[の]〉も似げなからずなむなど@ 聞こえつけたまへれば 〈[光源氏]〉幼心地にも はかなき花紅葉につけても 心ざしを見えたてまつる
助詞と係り受け
主上も限りなき御思ひどちにて な疎みたまひそ あやしくよそへきこえつべき心地なむする なめしと思さでらうたくしたまへ つらつきまみなどはいとよう似たりしゆゑ かよひて見えたまふも似げなからずなむ など聞こえつけたまへれば 幼心地にも はかなき花紅葉につけても 心ざしを見えたてまつる
「限りなき御思ひどちにて」→「聞こえつけたまへれば」
主上も限りなき御思ひどちにて な疎みたまひそ あやしくよそへきこえつべき心地なむする なめしと思さでらうたくしたまへ つらつきまみなどはいとよう似たりしゆゑ かよひて見えたまふも似げなからずなむなど 聞こえつけたまへれば 幼心地にも はかなき花紅葉につけても 心ざしを見えたてまつる
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:に つ べき たり し ず れ
- に:断定・なり・連用形
- つ:強意・つ・終止形
- べき:可能・べし・連体形
- たり:存続・たり・連用形
- し:過去・し・連体形
- ず:打消・ず・連用形
- れ:完了・り・已然形
敬語の区別:御 たまふ きこゆ 思す たまふ たまふ 聞こゆ たまふ たてまつる
主上も限りなき御思ひどちに て な疎みたまひそ あやしくよそへきこえつ べき心地なむする なめしと思さでらうたくしたまへ つらつきまみなど はいとよう似たり しゆゑ かよひて見えたまふも似げなからず なむ など 聞こえつけたまへれ ば 幼心地に も はかなき花紅葉につけて も 心ざしを見えたてまつる
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
御思ひどち 01138
帝にとって藤壺の宮と光源氏はどちらも愛しい同士の二人であること。
よそへきこえつべき 01138
「よそふ」対象に敬意が向くので、藤壺の宮を桐壺更衣に比べる、似ていると考える、見立てる。通例主体を帝とするが、直後の「らうたくしたまへ」とのつながりから、光源氏ととるのがよさそうだ。敬語がないので、どちらでも解釈は可能である。
なめし 01138
無礼。高貴な藤壺の宮を、母である身分の低い桐壺更衣になぞらえることに対して。
らうたく 01138
かわいい。
似たりし 01138
桐壺更衣が藤壺の宮に似ていた。敬語がない点に注意。
かよひて見えたまふ 01138
形容詞の連用形(て)+「見ゆ」+「たまふ」。光源氏には藤壺の宮が桐壺更衣と似通ってお見えになる。「たまふ」は藤壺に対する敬意。
似げなからず 01138
似つかわしい。
聞こえつけたまへれば 01138
帝が藤壺にお願い申されておられたので。