ものなども聞こし召 桐壺07章23
原文 読み 意味
ものなども聞こし召さず 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳などはいと遥かに思し召したれば 陪膳にさぶらふ限りは 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く
01103/難易度:☆☆☆
もの/など/も/きこしめさ/ず あさがれひ/の/けしき/ばかり/ふれ/させ/たまひ/て だいしやうじ/の/お-もの/など/は/いと/はるか/に/おぼしめし/たれ/ば はいぜん/に/さぶらふ/かぎり/は こころぐるしき/み-けしき/を/み/たてまつり/なげく
食事などもお召し上がりにならず、朝粥は形ばかり箸をおつけになって、昼のお膳などとうてい手が出ないとお思いなので、給仕の者はお仕えしている間はつらそうなご様子をお見受けして嘆く。
文構造&係り受け
主語述語と大構造
- ば…は…を見たてまつり嘆く 二次元構造
〈[帝]〉ものなども聞こし召さず 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳などはいと遥かに思し召したれば 陪膳にさぶらふ〈限り〉は 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く
助詞と係り受け
ものなども聞こし召さず 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳などはいと遥かに思し召したれば 陪膳にさぶらふ限りは 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く
「朝餉のけしきばかり…思し召したれ」:「ものなども聞こし召さず」の具体例
ものなども聞こし召さず 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳などはいと遥かに思し召したれば 陪膳にさぶらふ限りは 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く
助詞:格助 接助 係助 副助 終助 間助 助動詞
助動詞の識別:ず させ たれ
- ず:打消・ず・連用形
- させ:尊敬・さす・連用形
- たれ:存続・たり・已然形
敬語の区別:聞こし召す させたまふ 御 思し召す さぶらふ 御 たてまつる
ものなど も聞こし召さず 朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳など はいと遥かに思し召したれ ば 陪膳にさぶらふ限りは 心苦しき御気色を見たてまつり嘆く
尊敬語 謙譲語 丁寧語
古語探訪
朝餉 01103
朝餉の間で食べる簡単な食事。
大床子の御膳 01103
大床子の座で食べる正式な食事。
さぶらふ限り 01103
帝に奉仕している間は。さぶらはない場合を想定している。次注「嘆く」参照。
〈テキスト〉〈語り〉〈文脈〉の背景
嘆く 01103:三度繰り返されるのは数え切れない民の声
「陪膳にさぶらふ限り…嘆く/01103」「すべて近うさぶらふ限り…嘆く/01104」「(主体明記せず)…嘆く/01105」と三度繰り返される。二度目までは帝の前で奉仕している場合、三度目は主体が明記されないが、「いとたいだいしきわざなり/01103」という強い口吻からすると、帝の反対勢力であろう。ただし、「さぶらふ限り」と対比されていることから、陰口であり、面前でないので、帝への批判を伴うことができるのだろう。三度繰り返すのは昔語りの手法である。
耳からの情報伝達;立ち現れる〈モノ〉
語りの対象:帝/給仕を務める帝付きの女房
反復型:A~AB→C:A~AB→C
《ものなども聞こし召さず》 A
食事などもお召し上がりにならず、
《朝餉のけしきばかり触れさせたまひて 大床子の御膳などはいと遥かに思し召したれば》B
朝粥は形ばかり箸をおつけになって、昼のお膳などとうてい手が出ないとお思いなので、
《陪膳にさぶらふ限りは心苦しき御気色を見たてまつり嘆く》 C
給仕の者はお仕えしている間はつらそうなご様子をお見受けして嘆く。